日本の調達・購買部門には、「マザー調達本部」として設計・製造の現場に有益な情報を届けることと、戦略的なサプライヤー組織を築くことが求められると、未来調達研究所取締役の坂口孝則氏は指摘する。それらを実現するための方策と課題について、同氏に聞いた。(聞き手は、高野 敦=日経ものづくり)

――サプライヤーを重要度で分類し、分類のための評価システムを作るというところまで伺いました。

坂口孝則(さかぐち・たかのり)氏
未来調達研究所取締役。大阪大学卒業後、電機メーカーおよび自動車メーカーで調達・購買活動に従事。未来調達研究所 取締役。アジルアソシエイツ 取締役。調達・購買業務コンサルタント。製品原価・コスト分野の専門家。調達業務の理論的構築を行う。製造業を中心に調達・購買戦略構築やサプライヤー・マネジメント等のコンサルティングを手掛ける。著書は『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『調達・購買の教科書』(同)など、23冊。

坂口氏:3つめの重要なポイントは、調達・購買部門が現場で見付けたコスト削減のネタを、次の開発に生かすために情報発信することです。「マザー調達本部」というコンセプトを紹介しましたが、量産時に発掘されたコスト削減策をマイナーチェンジなりフルモデルチェンジなりに反映できれば、非常に大きな成果を見込めます。日本の調達・購買部門がマザー調達本部として、他の製品への応用を検討したり、全世界の拠点に展開したりすることを主導するような取り組みが求められます。

 この考え方は、一見すると何が新しいか分からないかもしれません。「もう、やっているよ」と思われる方も少なくないでしょう。

 ところが、名だたる大企業であっても、自社の他工場がどのようなコスト削減策を実施しているかということを意外と知らないのです。

――横のつながりといいますか、工場間で情報があまり共有されていないというのはよく聞きます。

坂口氏:工場間で情報のやり取りがないのもそうですが、もっとひどいところになると、他の工場がどのサプライヤーから調達しているかということも知られていないことがあります。国内でもそうなので、海外となればなおさらです。ここで申し上げたいのは、日本の調達・購買部門がマザー調達本部として全世界の工場に横串を刺す機能を果たしていかなければならないということなのです。