近年、メーカーにおける調達・購買部門の権限が強まっている。製品や生産設備に用いる部材の選定では、設計・製造の現場ではなく調達・購買部門が主導権を握っている場合も少なくない。各メーカーはどういった危機意識で調達・購買改革を進めているのか、この分野に詳しい未来調達研究所取締役の坂口孝則氏に聞いた。(聞き手は、高野 敦=日経ものづくり)

――昨今、調達・購買を変えようとしているメーカーが増えています。「集中購買」などは代表例ですが、設計や製造の現場に対して、調達・購買部門の存在感が高まっています。そもそも、メーカーとしてはどういった問題意識で調達・購買の改革に力を注いでいるのでしょうか。

坂口氏:「集中購買」自体は古くからある概念ではあります。ただし、大まかな流れでいうと、2000年代の初頭ぐらいに事業の「選択と集中」があり、それに伴う形で「集中購買」がさかんに喧伝(けんでん)されました。その問題点は後で話しますが、事業の「集中」を進める中で、調達・購買活動も集中・集約化しなければならないと「集中購買」という活動に発展していったのです。

――そんな経緯だったのですか。

坂口孝則(さかぐち・たかのり)氏
未来調達研究所取締役。大阪大学卒業後、電機メーカーおよび自動車メーカーで調達・購買活動に従事。未来調達研究所 取締役。アジルアソシエイツ 取締役。調達・購買業務コンサルタント。製品原価・コスト分野の専門家。調達業務の理論的構築を行う。製造業を中心に調達・購買戦略構築やサプライヤー・マネジメント等のコンサルティングを手掛ける。著書は『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『調達・購買の教科書』(同)など、23冊。

坂口氏:その中でも有名なのは、三菱電機とソニーでした。これからは調達・購買部門による主導の下、厳選されたサプライヤーに対して集中的に仕事を与えていくという内容でした。三菱電機では「Σ21(シグマ21)」、ソニーでは「SHARK」という活動がそれに該当します。

 要するに、1社または数社のサプライヤーに量をまとめて発注すれば関係性が向上し、コストも安くなるという発想です。(価格入札によって最安値を提示したサプライヤーに発注する)リバース・オークションという言葉が出てきたのもこの頃でした。

 その後、多くのメーカーも追従しました。ただし、当時のそうした動きに対する最近の問題意識として、量をまとめて交渉すれば安くなるのは分かったけれども、果たしてその安い調達品は機能するのかということがあります。前出の2社の問題ではありませんが、一般に「安かろう悪かろう」ではないかと。そもそも、本当に安いかどうかも怪しいわけです。