近年、中国ならではのイノベーションで成功した企業が増えている。Huawei Technologies社(華為技術)、ZTE社(中興通迅)、Lenovo社(聯想集団)、Tencent Holdings社(騰迅)、北京小米科技公司(小米)などが世界中から注目されている。その中で、こんな現象に気付いただろうか。通信設備、IT、電気自動車、家電、スマホ、ネットサービスなどの分野では、グローバル企業に成長する中国メーカーが数多く現れたが、その基幹となる半導体チップの分野においては世界的に有名な企業が生まれていない、という現象だ。

 中国にはこんな大きな市場があり、政府から半導体産業への期待も高い。シリコンバレーから帰ってきたエリートで立ち上げたベンチャーも多い。それにもかかわらず、なぜなのか--。今回は、「王道」と「近道」という異なる道を歩んだ2つの企業の比較と、幾つかの成功企業の共通点に関する考察を通じて、中国流のイノベーションの特徴をまとめてみたい。

中星微電子と台湾MediaTek

 北京に本拠地を持つVimicro社(中星微電子)は、1999年、当時の中国情報産業省のサポートの下で、シリコンバレーから帰ってきたエリートたちが設立した半導体チップの設計・製造メーカーだ。マルチメディア・チップやモバイル通信のコア技術を開発し、中国や海外で2000件を超える特許を出願。「星光」シリーズのマルチメディア・チップは、ソニー、韓国Samsung Electronics社などの大手メーカーが採用しており、世界No.1、中国No.1の技術と商品も持っている。NASDAQにも上場しており、中国では最も知名度が高く注目されている半導体企業だ。

 しかし、売り上げと利益はそれほど伸びていない。2013年5月に中星微電子が発表した2012年の年次報告によると、2011年からの黒字転換は果たしたものの、2012年の営業収入は7120万米ドル(約69億4556万円)にとどまる。ほぼ同じ時期に市場調査会社の米IHS社iSuppli(IHS iSuppli)が発表した「2012年世界半導体メーカー収益ランキング トップ25社」では、中星微電子よりも4年早く創業した台湾のMediaTek社(聯発科技)が、33億5700万米ドル(2680億円)で、2011年より3位アップの18位にランキングされている(MediaTek社については、本コラムの「リバース・イノベーション2.0」参照)。

 中星微電子は中国を代表するチップ設計・製造メーカーとして、特定の分野での成功を収めた企業といえる。ところが、知名度、売り上げ、利益などは、MediaTek社と比べてはるかに及ばず後塵を拝する。「シリコンバレーモデル」+「政府支援」+「独自のコア技術」といった最強パターンと思しき条件を手中に収めながら、どうしてそれほど大きくは成長できなかったのか--。その要因は、技術駆動という思考回路に偏りすぎたことが大きいのではないかと筆者は考えている。

 中星微電子で代表される中国大陸の半導体企業は、シリコンバレーから帰ってきた技術エリートにより創業されるなど、技術主導の色が濃く、管理層も技術専門家が多い。そして、最先端技術でビジネスの道は拓けるという考え方が根強い。一見すると、それは「王道」に思われるが、現実には、中国ではうまくいかなかった企業が多い。それらとの対比で考えると、MediaTek社、Huawei Technologies社、BYD社(比亜迪)といった中国の成功企業の特徴や中国流イノベーションの本質が見えてくる。