他の産業で当たり前のことが農業には足りない

岩佐 必要なものはITだけではありません。工程管理や物流、ブランディングなど、農業にはイノベーションの余地がたくさん残っています。農地法の強い影響があるので、日本で大規模な農業法人はつくれません。だから、逆に言えば、他の産業で当たり前になっている、日本の経済界が培ってきた経営ノウハウが農業には全く取り込まれていない。だからこそ、大きなポテンシャルがあるんです。

山本 そうすると、異業種が農業とつながるために何か新しいことが必要なわけではなく、他の業界で当たり前のことができる環境が必要ということですね。でも、それが今まではできなかった。なぜなら、翻訳機能を担えるプレーヤーが存在していなかったから。GRAでは岩佐さんが,その役割を果たしている。だから、多くの企業や団体が関心を抱いて集まってくるんですね。

岩佐 実は農業生産法人の経営者(業務執行理事)は、年間のうち多くの日数、農作業を行わなければならないという農地法の決まりがあるんです。でも、それで、きちんとした経営ができると思いますか。経営者が1年間の多くを現場に費やさなければならないわけです。それをやっている限り、事業にスケーラビリティを期待できない。

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 例えば、大手企業は農業法人に出資できても、実質的に農業そのものはできない。だって、社長が長期間、畑に入るのは不可能でしょう? GRAのメンバー構成だと、その日数は120日以上なんです。

山本 それは、厳しいですね。

岩佐 まだ構造的な問題が残っています。これまではこの規則に沿って守りの姿勢で農業を展開すればよかったけれど、これからはそうはいきません。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を機に海外との競争にさらされるわけですから。海外の農業法人は経営力をフルに活用して勝負を挑んできます。我々も、それに対抗し得る経営体制を整える必要がある。経営視点での競争原理を農業に持ち込まなければならないんです。それが今、一番の問題です。

 研究開発にしても、生産にしても、物流も、マーケティングも、人材開発も、ありとあらゆるバリューチェーンを構成する要素で、さまざまな産業の知見が農業には必要です。

 さらに株主の問題もあります。現在の農地法では、農業法人の株は認定農業者しか取得できません。他の業界で経営を学んだ人が農業に参入しにくい状況があるので、上場やバイアウトも難しい。それでは優秀な経営者は農業に見向きもしないですよね。