異業種とのゆるい結び付きがイノベーションを生む

岩佐 ええ。30ほどの企業や団体に関わっていただいています。ITと農業の結び付きを具現化しようとしているわけですが、IT側の立場から見ると、実はIT業界も閉塞感が漂っていて、新しい方向性を模索している。そうした企業群と農業を結びつけることが、成長産業の創出につながっていくはずと思っています。

山本 それは岩佐さんがITベンチャーの経営者でもあり、IT側の言葉を農業側に翻訳ができることが大きいのでしょうか。

岩佐 そうです。IT屋が農業を始めたから、双方の翻訳機能を担うことができる。同じ業界の中の交流だけではイノベーションは生まれません。IT業界という強いつながり、農業という強いつながり、この二つのクラスターがゆるくつながることがイノベーションの源泉になるはずです。

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 ネットワーク理論に「weak ties theory(弱い絆の強さ)」という考え方があります。これは、強いネットワークよりも、弱いネットワークからの方が新しいことが生まれやすいという意味合いです。だから、GRAでは異業種同士のゆるいつながりでイノベーションを生み出すことを意識して、じわじわとさまざまなことを仕掛けているんです。

 山本さんが復興庁で立ち上げた、地域復興マッチング事業「結(ゆい)の場」も、まさにそうですよね。被災地域の企業と全国の企業が集まって対話しながら、新しいビジネスを考えていく。

山本 そうです、そうです。結の場とは別に、被災地で頑張っているさまざまな方々が参加する飲み会も半分趣味で開いているんですが、そういう「ゆるーい」場から具体的な共創が結構生まれるんですよね。

岩佐 やはり、「ゆるーい」のがいいんですよ。ガチガチに同質化した集まりからは、何も生まれませんから。

 被災地が震災後に変わった一番のポイントはそこだと思うんです。閉鎖的な東北の沿岸地域、しかも農業という一次産業に携わる人々が、これまで出会ったことのないような業界の、全く異なるバックグラウンドの人々と触れ合う。それが、新しい何かを生み出すキッカケになると信じているんです。

山本 GRAの取り組みは、農業を成長産業にしようという点が大切だと思います。被災地の産業は元に戻しても、復興にはならない。だから、あえて成長産業にすることを目指す。でも、農業を成長産業に変えることは並大抵の目標ではないと思います。具体的な道筋は描けていますか。