「10年で100社、1万人の雇用を創出する」――。

 これは、とあるベンチャー企業のビジョンです。さて、どんな分野の企業だと思いますか? IT(情報技術)系でしょうか。それとも、バイオ系でしょうか。

 こんにちは。かなりあ社中の山本です。このビジョンは、実は新しい農業の姿を目指すベンチャー企業のものなんです。

宮城県山元町にあるGRAのイチゴ農園
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 東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県山元町。そこで震災後に設立された農業生産法人が掲げたビジョン。それが「10年で100社、1万人の雇用」です。震災被害に見舞われた町の予算規模を10年で10倍以上にする。ビジョンの背景には、この目標へのチャレンジがあります。

 その企業の名はGRAです。

 仙台から車で1時間ほど。国道6号線を南に走った宮城県最南端の沿岸地域に山元町はあります。震災以前は、海と穏やかな気候から「宮城の湘南」と親しまれていました。JR常磐線が走り、仙台経済圏のベッドタウンとしての地位も確立していた山元町は「仙台イチゴ」の産地。浜辺近くの畑には無数のイチゴ農園が広がっていました。

 GRAは、そんなイチゴ生産のメッカに震災後に設立された農業生産法人です。生産する農作物は、もちろんイチゴ。設立はいまだ震災の傷跡が色濃く残る2011年7月。今、周辺にあるほとんどの畑が津波による塩害で壊滅状態にある中、ポツンと、でもなぜか凛々しくGRAのイチゴ栽培のハウスは立っています。

 GRAのイチゴ生産の特徴は、徹底したITの活用です。既に同社のイチゴは東京にも出荷され、独自ブランド「MIGAKI-ICHIGO」として販売されています。現在は生産研究という段階ですが、年間生産量は約50トン。同じ規模の生産施設の1.5倍の生産効率だそうです。

 MIGAKI-ICHIGOの平均単価は、一般的なイチゴの約3倍。2012年のシーズンには、都内のデパートで1粒1000円の高値が付いた例もあります。そんなに高価なイチゴが完売するほど、「MIGAKI-ICHIGO」は高級ブランドとしての地位を確立しつつあるのです。ここにきて、被災地で培ったノウハウを持ち込んで、インドでのイチゴ生産に挑戦も始めました。

 「被災地発、グローバル行き」――。まさにこれを地でいく社会起業活動です。