統一感が欠ければ、不便なサービスに

 一つは、サービスの使い勝手を高めること。その際に重視したのは「シンプル」であることです。カードリーダーだけではなく、スマホ・アプリや決済システムも同様にシンプルで、統一感があるべき。例えば、どんなにカードリーダーがシンプルなデザインで、カードを読み込む動作がスムーズだったとしても、アプリの起動や操作画面、署名の入力が煩雑であれば、サービスの統一感が薄まってしまいます。

 サービスを構成する要素技術の一つ一つが優れていても、統一感が欠ければ不便なサービスになってしまう。スマホで手軽にクレジットカードを導入できるというサービスの利点をきちんと打ち出すには、誰もが簡単、シンプルに使えることが不可欠だったわけです。

コイニーの佐俣氏

 デザインやストーリー性にこだわったもう一つの理由は、ブランド構築のため。佐俣氏はコイニーの目標を、「VISA」や「Master」といったグローバルな決済ブランドに育てることと話します。スマホを用いたクレジットカード決済は「Coiney」と言われるようなブランドにしたいというわけです。

 クレジットカード決済の分野では、ライバル企業との競争が最終的には決済手数料などの金額で良い条件を提示することに行き着きます。ただ、その競争軸はある程度までいくと収束し、他社と差異化しにくくなる。そこで重視されるのはブランド力です。要するに、「あそこのサービスだから使いたい」とユーザーに思ってもらうには、技術やサービスの背後に見えるストーリー性やコンセプトの一貫性が大切になるわけです。

 そのビジョンを視座に入れながら徹底的にコンセプトから議論し、他社を上回るユーザー体験を最初から実現する。これは海外展開での拡張性を見込んでクラウド開発環境を選択した点ともつながります。従来のカード決済端末は保守サービスなどを見込めるかもしれませんが、基本的に売り切りです。これに対してコイニーのようなスマホを用いるクレジットカード決済では決済端末自体ではなく、使ってもらうことが収益の源泉になります。その違いが色濃く出ていると言えそうです

 このコンセプトの一貫性をこれからも維持していくために、サービスを本格的に始めるまで4人という極めて少人数で開発を進めたことは非常に意味がありました。それは最初に揺るがないコンセプトを固めることができたからです。佐俣氏も「4人で濃密な時間を過ごしたからこそ、ものづくりのカルチャーを構築できた」と語っています。