参入リスクが高く、難しいと思われているビジネス分野があります。例えば、医療はその筆頭でしょう。特に医療機器や医薬品は人の命が懸かっているだけに、薬事法などの法律による規制も厳しい。開発にも多額の資金と時間が必要であることから、寡占も進みやすい。新参者には商取引の慣習も分かり難い。三拍子そろったリスクの高さがあります。

 ただ、これは逆のことも意味しています。参入障壁の内側に入ることができれば、それが大きな強みに変わるという事実です。もちろん、そのためにはリスクを厭わず、むしろそれを承知で既存企業とは異なる革新的な技術やビジネスモデルを確立する覚悟と実行力が必要。リスクを目にして躊躇してしまえば、外側から見ていることしかできません。

 医療と同じような参入リスクがありながら、インターネットの普及を追い風に新しいビジネスモデルで勝負する企業が増えつつある事業分野があります。例えば、金融や保険です。ライフネット生命保険は好例でしょう。Webサイトでの販売と、シンプルで分かりやすい保険商品で躍進しています。

 同じように常識や思い込み、商取引の慣習を打破し、金融分野で日本発の新しいサービスを生み出そうとしている企業があります。コイニーというベンチャー企業です。米PayPal社の日本法人出身で、日本での同社のサービス導入を担当していた佐俣奈緒子氏が2012年3月に創業しました。

スマホを用いたクレジットカード決済サービス「Coiney」

 佐俣氏が率いるコイニーが新規参入した分野は、店頭でのクレジットカード決済サービス。サービス名は、社名と同じ「Coiney」です。

 小売店の店頭で代金をクレジットカードで支払う。これは、ほとんどの読者が経験しているでしょう。この際に店舗が用いる決済端末をスマートフォンやタブレット端末で実現する。これがCoineyの特徴です。「スマホ決済」や「モバイル決済」などと呼ばれるサービスです。

 専用の小型クレジットカード・リーダーを外付けし、スマホ向けアプリケーション・ソフトウエア(以下、アプリ)を導入することで、スマホを決済端末に早変わりさせます。これにより、「簡単、シンプル、自由に」に利用できるクレジットカード決済を目指そうというわけです。

 実は、このサービスは極めてホットな分野になっています。日本でも、米国で同様のサービスを手掛ける米Square社や、楽天、PayPal社などが携帯電話事業者やクレジットカード会社と連合を組んで同様のサービスに参入済みです。コイニーは、たった15人の人員で並み居る大手企業と同じ土俵で競争を繰り広げています。2013年4月には、大手クレジットカード会社のクレディセゾンと業務提携し、同年8月末に同社と資本提携も実現しました。

 今回は、佐俣氏が「どのような経緯でコイニーを創業したのか」に迫りながら、「ヒットの要諦」を分析していこうと思います。