自分の思いやビジョンを熱くメンバーに伝えられるか

 もちろん、佐俣氏の勢いを意気に感じただけではないでしょう。説明した壮大なビジョンが、本当に魅力的だったのだと想像します。だからこそ、ビジョンの大きさと、面白さに共感できる視点を持った優秀なメンバーを集めることができた。メンバー集めの時点からビジョンを共有したことが、少人数によるスピード開発につながったのではないでしょうか。

 この開発メンバーの探し方は、大きな会社ではなかなか真似できることではないかもしれません。ただ、参考になる点は少なくありません。

 それはリーダーとして開発チームを立ち上げる際に、いかに自分の思いやビジョンを熱くメンバーに伝えられるか。そして、そのビジョンに共感し、目標を共有できるようにしていくか。このことこそが開発プロジェクトで最も大切だということでしょう。言うは易しですが、実行することは難しい。でも、実行しなければ、世の中にインパクトを与える製品やサービスを開発できないわけです。

 ここまで、佐俣氏の思いがコイニーの創業につながるまでのストーリーを追ってきました。そこから二つの「ヒットの要諦」が見えてきます。

■今回の「ヒットの要諦」
その1:
開発対象の製品やサービスの周辺情報を調べ過ぎるな!
その2:
大きなビジョンを熱くメンバーに伝え、方向性を共有せよ!

 冒頭でも書きましたが、参入リスクが高そうな分野は誰もが二の足を踏む。だからこそ、障壁を乗り越えれば、チャンスが広がる。もちろん、乗り出すには既存の常識をぶち破る革新が必要です。

 業界について知り過ぎてしまい、目についたリスクを恐れて避けながら進めば、当初の目的地とは異なる場所にたどり着く。その行動からはイノベーションが生まれないということでしょう。大手企業であれば、リスクを指摘する周囲や上司を説得する術も必要になります。その際の説得力を増すためには、大きなビジョンによる仲間づくりが必須です。

 佐俣氏は、最初のメンバーの獲得を機に満を持して2012年3月にコイニーを設立しました。その後、ハードウエア開発担当の技術者やシステム開発担当の技術者が加わり4人でサービス開発を進めることになります。実は、第1号メンバーは、技術者ではなくデザイナーでした。それはなぜか。次回は、たった4人によるスピード開発でのハードルや、サービスのコンセプトづくりのこだわりを見ながら、ヒットの要諦を探っていきたいと思います。