古くから犯罪捜査にも使われてきた、個人を特定する技術が身近なものになっていきそうだ。指紋認証技術である。指の表面の凹凸で成り立つ指紋は、ひとり一人の模様が異なる。これをオンライン・ショッピングなどの個人認証に用いる動きが広がろうとしている。

Apple社の「iPhone 5s」
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 キッカケは、2013年9月10日に米Apple社が発表したスマートフォン(スマホ)の最新機種「iPhone 5s」である。同社はこの機種に指紋認証機能「Touch ID」を搭載した。スマホ下部のホームボタンに指を置くと、指紋を読み取る仕組みだ。

 スマホをはじめとする携帯端末に指紋認証機能を加える取り組みは初めてではない。だが、なかなか浸透していないのが実情だ。プライバシーの観点から自身の生体情報を用いることに壁を感じると同時に、対応するオンライン・ショッピングなどのサービスも限られていたことが大きい。

 Apple社は今回、この技術をスマホの待ち受け画面の解除と、同社のオンライン・ストアで、アプリケーション・ソフトウエア(以下、アプリ)などを購入する際の認証手段として採用した。これまでは、待ち受け画面の解除で4ケタの数字を打ち込んだり、アプリ購入でIDとパスワードを入力したりする必要があった。指紋認証機能は、このプロセスを簡便化することが狙いだ。

 IDやパスワードの入力プロセスを面倒に感じているユーザーは多い。増え続ける個人認証が必要なサービスで、IDやパスワードを使い分け、すべてを覚えておくのは至難の業だろう。利用者が多いApple社のサービスで認証プロセスの簡便化が受け入れられれば、モバイル端末向けの個人認証技術として指紋認証が一気に表舞台に立つ可能性がある。このため、関連業界は期待感を高め、色めき立っている状況だ。

 Apple社がスマホに指紋認証を導入することは、1年ほど前から、いわば既定路線との見方が強かった。関連の企業買収や特許出願が相次いだからである。

 2012年7月26日にApple社が米証券取引委員会に提出した資料で、同社が指紋認証技術を開発する米AuthenTec社を買収することが明らかになった。買収額は3億5000万米ドル程度と言われている。

 AuthenTec社の指紋認証技術は、5~6年前に日立製作所や富士通が携帯電話機に採用した実績がある。Apple社による買収が公になる10日前には、Apple社とスマホのシェア争いを繰り広げる韓国Samsung Electronics社がAuthenTec社の指紋認証技術を採用すると発表しており、これも大きな話題となった。