目下、半導体製造装置市場は回復局面にあり、製造装置の受注は足元ではやや一服感が出ているが、前工程を中心に持ち直しつつある。これまで、シリコン・サイクルと呼ばれる好不況を繰り返してきた半導体製造装置業界だが、我々は、今回のサイクルは、これまでとは様相が大きく異なるものになると予想している。

 理由は、東芝陣営以外のフラッシュ・メモリの大手メーカーが、次世代のノードに興味を示していないためである。DRAM市場の成長鈍化でメーカーの設備投資水準がかつてのレベルを大きく下回る中、メモリ投資を牽引してきたフラッシュ・メモリだが、主要メーカーが微細化に興味を示さない、という業界始まって以来の事態を迎えている。

DRAM市場の成長鈍化(出所:野村證券)
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 フラッシュ・メモリ・メーカーが微細化に関心をなくしてしまった、または関心が低くなってしまった背景には、(1)NANDフラッシュ・メモリが動作限界に達してしまったこと、(2)微細化してもコストが下がらなくなったことがあると我々は考えている。

 (1)については、NANDフラッシュ・メモリにおいて、90年代から40nm限界説が唱えられていた。相互干渉によって、セルが正常作動しなくなる、いわゆる「Yupin効果」などが微細化の阻害要因として懸念されていた。東芝、韓国Samsung Electronics社は高い技術力でその壁を乗り越えてきたが、それも限界に達した可能性がある。また、書き換え限界の問題もある。フラッシュ・メモリでは、その都度トンネル酸化膜を破壊しながら、フローティング・ゲートに電子を出し入れしてデータを書き換えるのだが、微細化の進行によってトンネル酸化膜が小さくなって耐久性が低下した。さらに、多値化によって、ビット当たりの書き換え可能回数はさらに減少している。

フラッシュ・メモリの書き換え限界(出所:野村證券)
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 (2)については、現状、微細パターンの加工については、4重露光などの多重露光に頼るしかないが、4重露光はシングル露光に対して、エッチング・プロセスが約8倍、成膜プロセスが約4倍になる。しかも、歩留まりの低下が生じる。4重露光が必要となる16nm世代では、微細化によって、逆にビット・コストが上昇する可能性がある。目下、製造装置メーカー、デバイス・メーカーが共同でプロセス・コストの引き下げに取り組んでいる。

4重露光によるプロセス・ステップ数の増加(出所:野村證券)
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 一方で、NANDフラッシュ・メモリの需要そのものは、今後も増加が見込まれる。デバイスの価格は需給で決定されるため、プレーヤーが少ないNANDフラッシュ・メモリ市場では、各メーカーの舵とり次第で十分な利益を計上することが可能であろう。これまでのように、微細化による未来のコストダウンを見込んで、無理な値引き販売をするという行動が抑制され、各社の収益が改善する可能性もある。

 微細化を諦めたSamsung Electronics社は社運をかけて3次元NANDフラッシュ・メモリ(3D-NAND)の開発に注力しており、半導体製造装置業界では、3D-NANDの設備投資への期待感が上昇している。同社は中国の西安で2014年にも3D-NANDの量産を開始すると宣言、各装置メーカーにも大量の装置の引き合いを出している。

3D-NANDの構造(出所:東芝)
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 半導体製造装置の納期は、11月となり、8月に発注があった。投資規模は12万枚/月相当の予定だが、8月の発注はうち、4万枚に対応したものとなろう。エッチング装置、成膜装置の使用頻度が従来型のフラッシュ・メモリよりも増加する見込みである。
Samsung Electronics社の3D-NANDの開発状況がどうなっているかは、余り良く分かっていないが、そもそも3D-NANDはホール径を40nm以下にするメドがついておらず、19nmのフローティング・ゲート型のフラッシュ・メモリに対してコスト・メリットを出すのに40~50層のメモリ・セルの形成が必要という試算もある。

 本来なら40~50層成膜した後で電極を最下層までエッチングすれば、製造コストも下がるのだが、そのようなアスペクト比が高い穴をエッチング装置で開けるのは困難なため、東芝は、かつて、8層ごとにエッチングを行うという発表をしており、Samsung Electronics社の方式に至っては、もっと高い頻度でエッチングを行う模様である。

 我々の調査によると、2014年は16~24層のパイロット・ライン的な生産しか予定されておらず、しかも大量のArF液浸露光装置の発注も行われる模様である。つまり、西安の工場では、3D-NANDの量産は行っても、そのほとんどの製造能力は既存のフラッシュ・メモリかDRAMに割り当てられると推定される。

 そもそも、メモリ・メーカーの量産の概念は非常に怪しいものであり、量産を予定している工場でウエハーを1枚でも流したら量産、などという訳の分からない基準を掲げている日系メモリ・メーカーも存在していた。世間一般では、それを試作というのであるが、堂々と「既に量産を開始した」と発表するので、誤解してしまう人が多いという弊害があった。