研究マネジメントの役目は一緒にやりたいと思ってもらうこと

北野 成果がソニーの事業と接点があれば理想ですし、なければスピンアウトすればいいと思う。ただ、ソニーはそれなりに大きな器がある企業だから、大きなテーマであれば全く関係がないという話にはなりにくい。大きな仕掛けができれば、その中でソニーが少し果実を得るだけでも十分なものになると思うので。

加藤 そう言い切れる経営者は少なくなっていますよね。だから、ソニーが今でもそういう考えでCSLを運営しているのであれば、すごいメッセージだと思います。研究を担うCSLの研究者の契約体系は、普通の社員とは全く違うんですか。

北野 給料は交渉で決めます。契約は1年ごとに見直します。ただ、先ほども言ったように、1年で何かを出せというものではありません。

 いろいろな分野の研究者と議論できる環境や自由度も含めて結構、居心地がいいと思いますよ。CSLを逆に踏み台に使ってやるくらいの人じゃないと困るんです。どこでも食っていけるという自信というか、空元気というか、勘違いというか、それがないと新しいことはできないでしょう。安心を求めるマインドセットとチャレンジとは全く逆のものですよね。CSLは、チャレンジするための機会を提供しています。一緒にやりたいと思ってもらえる環境を整える努力がマネジメントの役目だと思います。

 世のため、人のためになる研究なのか。後追いの研究になっていないか。50年、500年後に歴史上の位置付けとして、自分の研究がどう評価されると考えているのか。1冊の本になるのか、チャプターなのか、どういうスケールの話をしているのか。とにかく面白いと思える研究ならやってくださいというスタンスです。

加藤氏。
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加藤 「世の中を変える」という視点で考えると、若い研究者に大切なことって何でしょう。

北野 多様な経験ではないでしょうか。いろいろな仕事をしてみたり、いろいろな国に行ってみたり。現場で経験しないと分からないことはたくさんあります。技術を良く知る研究者が現地に行って、体験するからこそ感じられることが必ずあると思います。

 やはり、テレビやインターネットでは分からない。だから、さまざまな場所に行って現場を見て人に会うというプロセスを経ないと、リアリティを理解できない。世の中の0.1%しか知らないで99.9%を想像するのは、どれだけ頭がいいんだという話ですよね。

 とはいえ、僕も偉そうなことは言えなくて、仕事で欧米に出張するくらいしか経験がなかった。でも、ある時期からアジアや中東、アフリカにプライベートで旅行を始めたんです。そうすると、やはりものすごく多様性がある。世界というのは、欧米よりも他の地域の方が多いわけです。その体験で随分と考え方が変わりました。目を開かされた思いでした。

 人間の生活は根本的には同じ部分があるのだけれど、それでもやはり地域によってすごく違う。東京やニューヨーク、パリが、むしろ特殊なんです。多様性を東京で考えていたら間違えてしまう。そう思います。