“ポスト・スマホ”の筆頭候補として、ウエアラブル機器に注目が集まっています。最近数カ月だけでも、韓国Samsung Electronics社や米Qualcomm社といった大手企業が、独自の時計型端末(スマートウォッチ)を相次いで発表しています。2013年後半に入って発表されたスマートウォッチの代表的事例を図1に示しました。これらの端末はハードウエアとしては特に目新しいものではありませんが、スマホとの連動や運動量計としての活用といった新たな利用方法が提案されており、しばらくホットな話題を提供し続けることでしょう。

図1●続々と誕生するスマートウォッチ。左上は「Samsung Galaxy Gear」、左下は「Qualcomm Toq」、右上は「Atmel Smartwatch」
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 ウエアラブル機器は大きく二つのカテゴリに分類できます。一つは時計の形状をしたもの、もう一つはブレスレット型でディスプレイを備えないものです。このうち前者は多機能な腕時計であり、従来の腕時計の完全な代用品になります。常に従来の腕時計をしている人にしてみれば、腕時計を二つ着けるわけにもいかないでしょうから、どちらかといえば「腕時計離れ」をしている層に向けた製品といえるかもしれません。

 両タイプに共通する機能として、スマホとの通信機能のためのBluetooth(特にLow Energy仕様の4.0バージョン)、運動量計向けの3軸加速度センサ、時計としての基本機能をつかさどる低消費電力マイコンを備えています。取り立てて目新しいデバイスが使われているわけではありません。

 実際に8種類のスマートウォッチを分解してみたところ、チップ構成はどれもほぼ同様でした。端末側でアプリケーション処理を行うためにプロセサを載せたものも一部ありますが、大半は低消費電力マイコンにセンサと通信を加えた3チップ構成です。

 端末側でアプリケーション処理をするもの、スマホ側で処理をするものに加えて、電子ペーパー・ディスプレイを搭載することで差異化を図る端末も存在します(図2)。特徴は直射日光の下でも視認性に優れ、電力性能も高いこと。タッチ・パネル・コントローラも備えているので、視認性や操作しやすさを重視する人には適していそうです。

図2●電子ペーパー・ウォッチ「phosphor」
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消費電力の仕様では発展途上

 とはいえこれらのスマートウォッチはいずれも、完成度が高いとは言えないとの印象を拭えません。まず、従来の腕時計に比べると電池寿命が圧倒的に短い。連続使用時間は長いものでも1週間ほど、ものによっては数時間から1日程度のようです。

 この理由はいくつも思い浮かびます。1.5インチ程度の液晶ディスプレイでも駆動電力は馬鹿になりません。汎用マイコンの消費電力も、従来型の時計用ICに比べて大きいでしょう。通信を頻繁に使うことを前提とした製品ですから、そのための消費電力も大きくなりがちです。メール着信の「お知らせ」や各種データのスマホとのやり取りが多い場合、使用時間時間がカタログ記載値よりも大幅に短くなってしまうケースもあるようです。特にディスプレイが常時オン状態であれば、消費電力は非常に大きくなってしまいます。

 これに対して従来型の腕時計は、機能こそ時計に限られるものの、連続使用時間が数カ月~数年と非常に長いというメリットがあります。わずらわしい充電を毎日行わなければならないとすれば、スマートウォッチにはまだ大きな課題があるといわざるを得ないでしょう。

現状では汎用チップを流用

 さて、スマートウォッチにはどのような半導体チップが使われているのでしょうか。8種類のスマートウォッチに搭載されていたチップを図3に示しました。いずれの機種でもスマートウォッチ用の専用チップは見当たりません。端末側でアプリケーション処理を行うタイプでは、他製品・用途向けのプロセサを流用している事例が大半です。米Texas Instruments(TI)社のアプリケーション・プロセサ「OMAP3」を使ったもの、Samsung社のPNDに使われたアプリケーション・プロセサを使ったもの、米SigmaTel社(2008年に米Freescale Semiconductor社が買収)のメディア・プロセサを使ったもの、などです。端末側にアプリケーション機能がない機種では、伊仏STMicroelectronics社やTI社のマイコンが使われています。130nmや180nmといった旧世代のプロセス技術を用いた汎用マイコンです。

 総じて、現世代のスマートウォッチは既存チップの組み合わせでできている。この構成を採用している限りは、従来型腕時計のような数カ月~数年の連続使用時間を実現することは難しいでしょう。

図3●市販のスマートウォッチのチップ構成
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