プロセス改革に着手したものの、失敗に終わるケースは少なくない。ラティス・テクノロジー(本社東京)代表取締役社長の鳥谷浩志氏とデロイト トーマツ コンサルティング(本社東京)マネジャーの新井本昌宏氏は、失敗の原因に「組織の壁」を挙げる。これまでうまく役割を分担してきた組織が、グローバル化によって機能しなくなっているのだ。(聞き手は、木崎健太郎、高野 敦=日経ものづくり)

――開発プロセスの改革がなかなか思うように進まない企業も少なくありませんが、失敗の原因はどこにあるのでしょうか。

鳥谷浩志(とりや・ひろし)氏
ラティス・テクノロジー代表取締役社長。東京大学理学部情報科学科卒業後、リコー・ソフトウェア研究所でソリッドカーネル「DESIGNBASE」の研究開発に従事。1997年ラティス・テクノロジー技術統括部長、1999年同社代表取締役に就任、現在に至る。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会委員などを歴任。理学博士(東京大学)。著書に『3次元ものづくり革新』(日経BP社)、『3Dデジタル現場力』(JIPMソリューション)など。

鳥谷氏:組織の壁を超えられない企業は、やはり失敗してしまうことが多いと思います。3Dデータを基にイラストを作成する部門などは、典型的な例です。イラスト作成部門は3Dデータの効果を実感していても、設計部門は現行のプロジェクトで忙しいから、その時点でイラスト作成に必要な前の機種のことなど知らないとなってしまうわけです。

 そうすると、イラストを作成したい形状に対して3Dデータの充足率が50%しかなくて、残りは一から描かないといけないなどの事態に陥り、3Dデータを活用したイラスト作成の効率が落ちてしまいます。それでは、3Dデータを活用している意味があまりない。組織の壁を超えられないと、そのあたりを誰も調整できないので、改革が進みません。

 もっと悪いケースは、そうしたイラストなりドキュメントなりを作成しているのが完全子会社というときに多いのですが、改革なんて進められたら子会社の仕事が減るからそんなことはさせないなどという反対論が出てきます。そういった“政治”が絡んでくると、あっという間に1年、2年と経ってしまいます。企業がグローバルに競争している時代には、本当に戦うべき相手はどこかをしっかり見極め、率先して組織を変えようというリーダーが必要となるのです。

――それぞれの人が置かれている立場で考えると、どうしてもそういう話になってしまいそうです。

鳥谷氏:3Dデータの活用では、セキュリティーも頭を悩ます問題です。セキュリティーを緩めれば3Dデータは使いやすくなりますが、リスクも大きくなります。マニュアルなどのドキュメントを作成する例でいうと、セキュリティーに厳しい企業の場合は「当社の敷地から一歩たりともデータを持ち出してはならない。敷地内でドキュメントを作成すべし」などといってきます。そうすると、ドキュメントを作成する人たちはそこまで出向いたり常駐したりしないといけなくなるので、コストが思ったほど下がらないのです。

 それに対し、3Dデータをネットワーク上で共有し、許可された人だけがアクセスできるようにすれば、ドキュメントをいろいろな場所で作成できるので、どんどんコストを下げられます。極端な話、ミャンマーに委託すればものすごく安くなるかもしれません。

 実際はセキュリティーの問題があるので、バランスを考えます。そこで、セキュリティーの問題について誰が責任を取るのかという話になります。とはいえ、多くの会社では誰も責任を取りたがりません。3Dデータや関連する技術情報を外部に出して競合他社に流出したら、誰が責任を取るのでしょうか。そもそも、3Dデータは誰が管轄すべきなのか。設計部長か、技術管理部長か、それともこの場合はドキュメント作成部門の部長なのか。部門を掌握する役員に責任はあるのか。そういったことに関するルールが決まっていないので、踏み出せないのです。