本連載では、テクノ・システム・リサーチ(TSR)のアナリストに、スマートフォンやカメラ、センサなどの市場動向に関するレポートを寄稿してもらう。第4回はBluetoothやWiFiといった近距離のWireless Connectivity(無線通信)機能を搭載した機器および半導体チップ・ベンダーの動向について、同社 アシスタントディレクターの丹羽健氏が分析する。(日経BP半導体リサーチ)

 BluetoothやWiFiなどのWireless Connectivity市場は2000年ごろに立ち上がった。新しい規格の策定や用途の開拓を通じて、市場は年々拡大を続けている。とりわけ昨今ではスマートフォンが機器間連携のハブとなるケースが増えており、スマートフォンとの連携機能に向けて各種機器にWiFiやBluetoothを搭載することが多くなっている。以下では、WiFiとBluetoothのそれぞれについて、搭載機器市場の動向と今後の展望を解説する。

 まずは、主な無線通信規格の位置づけをおさらいしておきたい(図1)。BluetoothはWiFiに比べると低速で短距離間の無線通信技術であり、音声や音楽データの伝送、簡単なデータ交換、リモート・コントロールなどに使われてきた。低消費電力版Bluetoothとして2010年に標準化されたBluetooth Smart(Bluetooth Low Energy/Bluetooth 4.0)は、スマートフォンやタブレット端末などの周辺機器に利用されており、さまざまなアクセサリを生みだしている。

図1● 主な無線規格の位置づけ
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 対してWiFi(IEEE802.11)はBluetoothに比べると高速で長距離の通信をカバーする。WiFiは従来、もっぱらネット接続機能に使われてきたが、WiFi Directによるディスプレイ映像伝送(WiFi Miracast)機能がAndroid OSでサポートされたことなどから、今後は動画伝送にも多用されそうだ。2012年末には60GHz帯を用いた超高速伝送規格としてIEEE802.11adが標準化されており、搭載機器の市場が2014年後半に立ち上がると我々は予想している。

応用の裾野を広げるBluetooth Smart

 まず、Bluetooth搭載機器の市場動向を分析したい。この市場は拡大を続けており、2013年に26億600万台、2018年には36億7400万台に達すると予測している。用途別では、足元はスマートフォンを含む携帯電話機の比率が高く、2012年には市場全体の70%を占めた。この比率は2018年には55%まで減り、代わってタブレット端末やノート・パソコン、テレビ、オーディオ用スピーカー、Bluetooth Smart対応の周辺機器などが拡大する見通しである(図2)。

図2●用途別にみたBluetooth搭載機器市場の予測
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 ここにきて大きく伸びているのが、Bluetoothを搭載したオーディオ用スピーカーの市場である。市場規模は2012年には1380万台だったが、2013年には5710万台と大幅に増える見通しだ。2018年には1億3550万台に達すると我々は予測する。低価格のポータブル・スピーカーの市場が急増していることに加えて、サウンド・バー(Sound Bar)のBluetooth対応が進んでいる。この他、携帯型音楽プレーヤやテレビのBluetooth対応も進み始めた。

 Bluetooth Smartの周辺機器市場は2012年に立ち上がった。市場規模は2012年に660万台で、2013年には約3000万台となる見通し。現状では「Nike+」や「Fitbit」などのフィットネス関連機器が目立つ。今後はパーソナル・ヘルスケア機器やウエアラブル機器(スマートグラスやスマートウオッチ)、テレビ用リモコンなどへの応用が期待される。

 Bluetooth Smartの応用の裾野は広く、玩具メーカーやスマホ用アプリを手掛けるベンチャなど、電子機器の開発経験を持たない企業も市場に参入している。このため、Bluetooth Smart対応の通信モジュールのベンダーは、完成品に近い状態の参照設計(レファレンス・デザイン)やターンキー・ソリューションを提供することが求められるだろう。こうした応用の広がりを背景に、Bluetooth Smart搭載機器の市場規模は、2018年には3億2720万台まで拡大すると我々は予測している。

WiFiはテレビや車載情報機器に浸透

 WiFi搭載機器の市場規模は2012年に15億2640万台であり、2013年には19億8500万台となる見通しだ(図3)。用途別にみると、スマートフォンおよびタブレット端末が60%以上を占め、次いでパソコンおよびネットワーク機器向けが15~20%を占める。

図3●用途別にみたWiFi搭載市場市場の予測
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 近年ではテレビやデジタル・カメラ(DSC)向けの需要も増加している。テレビではいわゆるスマート・テレビ機能向けにWiFiが実装されており、2013年にはテレビ市場全体の約30%をWiFi搭載機種が占める見通し。今後、スマートフォンやタブレット端末がMiracast機能に対応するのに伴い、テレビにも同機能が搭載されていくだろう。デジタル・カメラでは、SNSへの写真投稿などにスマートフォンとの連携機能を使うことから、2012年以降にWiFi搭載機種が増えている。ただし、デジタル・カメラ市場そのものはスマートフォンとの競合によって縮小傾向にある。

 これらの用途に加えて、2013年後半からは車載情報機器にもWiFiが実装されるようになる。中長期的には、家電やスマート・メーターなどM2M(machine to machine)分野での採用増加も見込まれる。2018年の市場規模は31億8400万台に達する見通しだ。

 WiFiの利用周波数帯に目を移すと、これまではコスト効率の高さから2.4GHzのシングル・バンド(単一周波数帯)が主流だった。ここにきて2.4GHz帯の混雑を背景に5GHz帯のニーズが高まっており、2012年からは2.4GHz/5GHzのデュアル・バンドの採用事例が増えている(図4)。2013年にはハイエンドのパソコンやスマートフォン、タブレット端末、無線ルータなどでデュアル・バンドIEEE802.11acの需要が拡大した。

図4●規格別にみたWiFi搭載機器市場の予測
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 2015年以降は、60GHz帯を用いたIEEE802.11adの普及が始まるだろう。60GHz帯は、室内でのメディア・ストリーミングやブロードバンド・アクセスなどの用途が見込まれる。普及のトリガーとなりそうなのは、デュアル・バンドWiFiモジュールの低価格化やMiracastの普及、デュアル・バンド端末の普及に伴う5GHz帯の混雑などである。ただし、60GHz帯にはアンテナを含むRF技術の難しさに加えて、コストや消費電力など開発面での課題が残されている。

コンボ・チップやプロセサ内蔵の事例が増える

 BluetoothやWiFiに対応する半導体チップは、さまざまな形態で提供されている。BluetoothまたはWiFiのいずれかの機能に対応するチップのほか、両機能を1チップに統合したコンボ・チップがスマートフォンやタブレット端末などで採用されている。モバイル機器向けアプリケーション・プロセサでもBluetoothやWiFiのベースバンド機能を内蔵した製品が登場しており、2012年以降に採用が進んでいる。

 BluetoothおよびWiFiに対応するチップを供給している半導体ベンダーの、出荷数量ベースの市場シェアを見てみよう(図5)。ここでは単機能やコンボ・チップ、アプリケーション・プロセサへの内蔵などあらゆる実装形態を含む数字をみていく。

図5●Bluetooth/WiFi対応チップ・ベンダーのシェアのマップ
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