机に視線を落としたまま、返事のないS係長に向かって松山氏は言った。
「リーダーは、バカでいいんですよ。笑いものになってなんぼです」
数週間後、S係長の社長と松山氏が電話で話したとき、「Sの奴、なんか最近おかしくなりましたよ」「いい意味ですよ。一皮むけたというか、力が抜けたというか……」と言われる。
S係長との6回目の最終セッションでは、半年に及ぶプロジェクトに社長から及第点をもらえたこと、打ち上げでメンバーから胴上げされたことなどが嬉しそうに報告された。
「優秀な自分」というセルフ・イメージを越え、「笑いものになれる」という余裕のある人格を形成することにS係長は成功したのだった。