世界初の液晶応用製品となる「液晶電卓」が1973年に登場してから40年――。今年はフラットパネル・ディスプレイ(FPD)にとって節目の年です。FPDの技術者は長い間、「壁掛けテレビ」の実現を目指して、大画面化や高画質化などの技術開発に邁進してきました。その過程で、FPDはノート・パソコンや携帯電話機といったモバイル機器にも応用され、薄型・軽量化や低消費電力化の技術も急速に進展しました。

 10年ほど前から本格的な普及が始まった液晶テレビの市場は、今では世界中に広がりました。スマートフォンなどのモバイル機器も、先進国だけでなく新興国も含めて、世界中で使われています。「ディスプレイ技術の応用の広がりは一服した」と感じている読者の方も多いのではないかと思います。

 ディスプレイ技術の応用の広がりは、もう頭打ちなのでしょうか? 筆者は、これから始まるディスプレイ技術の新応用があると考えています。三つのキーワードがあります。

 第1のキーワードは「Augmented Reality(AR)」です。現実環境に文字や映像などの情報を加えて、現実世界を拡張するものです。以前に筆者がこのコラムで紹介した「透明プリウス」は、その代表例です。慶応義塾大学教授の稲見昌彦氏が試作したもので、クルマの後部座席を必要なときに後方が透けて見えるように“透明”にして、安全確認を簡単にする技術です。具体的には、クルマの後ろにカメラを取り付けて後方の映像を撮影し、それをクルマの後部座席に投射するという仕組みで実現しています(関連記事1)。

 第2のキーワードは「Wearable」です。ディスプレイを身につけることで、これまで以上に、いつでもどこでも文字や映像などの情報にアクセスしやすくなります。米Google社が発表した「Google Glass」などのヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)や、米Apple社が開発中との報道がある腕時計型端末によって、身につけて使うディスプレイの市場が急拡大する兆しが出てきています。

 第3のキーワードは「Social Application」です。液晶などのFPDの分野で培った大面積基板に素子や回路を形成する技術を、センサなどの他分野に展開することで、医療・健康などの社会的な応用が広がります。例えば、東京大学教授の染谷隆夫氏が開発したセンサ・シートです。これは、厚さが2μmと薄くてしなやかに曲がるため、人体のような曲面にも貼り付けられます。加えて羽毛よりも軽いために、人体に貼り付けたときの違和感を抑えられることから、生体情報を継続的に計測する医療・健康用センサへの応用が期待できます(関連記事2)。

 筆者は毎年、ディスプレイの最新技術について第一線の技術者に講演していただく「FPD Internationalフォーラム」を企画しています。今年は、ディスプレイ技術の応用の新たな広がりを感じていただけるようにと心がけて、プログラムを作りました(フォーラムの公式サイト)。

 基調講演では、将来のクルマとディスプレイについて、ドイツのBMW社に講演していただきます。また、上述の医療・健康用センサを目指したシート状デバイスの開発について、東京大学教授の染谷隆夫氏に登壇いただきます。この他にも、HMD、フレキシブル・ディスプレイ、タッチ・パネルなど、さまざまな技術の最新動向が分かるセッションを企画しています。今年は10月23~25日にパシフィコ横浜で開催予定です。皆様と一緒に、ディスプレイの将来を議論できたら幸いです。