3Dデータ活用によるプロセス改革の対象は、近年普及が進むモジュラーデザイン(MD)にも及ぶ。しかし、その導入は一筋縄ではいかない。ラティス・テクノロジー(本社東京)代表取締役社長の鳥谷浩志氏とデロイト トーマツ コンサルティング(本社東京)マネジャーの新井本昌宏氏は、MD導入のハードルを下げるための手段としてボトムアップ型アプローチを提言する。(聞き手は、木崎健太郎、高野 敦=日経ものづくり)

――お二方が提唱している開発プロセス改革の1つに「製品・技術資産の改革」があり、そこでは昨今多くの企業で導入が進んでいるモジュラーデザイン(MD)に言及されているのが印象的でした。今、3Dデータ活用によるプロセス改革を進めるとしたら、やはりMDは外せない取り組みなのでしょうか。

新井本昌宏(にいもと・まさひろ)氏
デロイト トーマツ コンサルティング マネジャー。東京理科大学大学院工学研究科工業化学専攻修了後、メーカーにて生産技術、研究開発に従事。その後、日系コンサルティング会社を経て、2010年5月から現職。現在までに、研究、開発、設計、生産技術、品質保証、デザイン領域の業務改革コンサルティングを数多く経験。特に、開発期間短縮、品質向上に向けた開発設計プロセス改革・組織能力向上の実績を数多く有する。著書に『実務入門「仮説」の作り方・活かし方』(日本能率協会マネジメントセンター、共著)など。

新井本氏:そうですね、確かに最近は増えています。さらに、誤解を恐れずにいいますと、MDを導入したものの挫折している企業が多いという状況があります。

――そんなに多いのですか。

新井本氏:MDをきちんと実施する場合、初めに中長期の製品ロードマップを作成し、その中から共通部分を見いだして、というように進めていきます。しかし、実際は多くの企業がロードマップを描く段階で挫折してしまいます。MD以前にも標準化ということが10年ぐらい前からいわれていましたが、効果が出るまでに時間がかかることもあり、苦戦している企業が少なくありません。

 だからといって、MDが間違っているわけではないのです。MDの理論自体は正しいと、私は思っています。従って、MD導入のハードルを下げるためのアプローチが必要だろうということで、当社(デロイト トーマツ コンサルティング)では「SSM(Smart Structure Management)」という手法を提案しています

 SSMは、製品仕様と製品構造の関係を簡素化しつつ、製品構造が評価体系に及ぼす影響を網羅的に考慮した手法。SSMによって設計者は製品構造に基づいた部品構成をベースに思考できるようになり、QCDの改善に加えて、部品共通化や技術力なども見込めるという。SSMの詳細は、両氏による連載の「第16回:Smart Structure Management(SSM)(1)」や、両氏が執筆に参画した書籍『3D活用でプロセス改革』を参照。

 SSMの特徴は、QCDの改善やデザインレビュー(DR)での検証項目の絞り込みなどちょっとした成果を出しつつ、MDの考え方に慣れ親しめる点にあります。よくある話ですが、いきなりMDの導入が決まり、部品共通化を進めなさいといわれても、それまでそんなことを考えたこともない設計者からすれば、どう進めればよいのか分からないわけです。なので、SSMのようなアプローチによって日常的な業務の中でQCDの成果を出しながらMDへの感度を高めていき、機が熟したタイミングでMDを本格的に推進すればハードルがかなり下がるのではないかと考えています。