新技術がもたらす意外な効果

 一方で、今回NHKがオーバレイ表示に踏み切ったことが、放送通信連携サービスの普及に意外な効果を生むとの意見もある。実は、現在のデータ放送の枠組みと、既存のデータ放送対応テレビの組み合わせでも、技術的にはオーバーレイ表示を実現することが可能だ。

 現状のL字型表示は、データ放送を開始する際に業界で議論した結果、運用面での慣行として生まれたもの。電波利用に関する標準規格を策定する電波産業会(ARIB)の運用規定の中でL字型が例示されていることが、各社がこの表示形式を採用している理由の一つになっている。運用の慣行が変われば、映像上にアイコンなどを表示できる仕組みは既にある。

 ある業界関係者は「ハイブリッドキャストは、現行のデータ放送の枠組みでオーバーレイ表示がなし崩し的に始まるキッカケになるかもしれない」と指摘する。

 「BMLブラウザを搭載したデータ放送対応テレビは、既に“億台”の単位で存在する。既存のBMLの枠組みでオーバーレイ表示できるように運用を変えれば、通信と組み合わせたプッシュ型の表示など、新しいサービスにつなげやすくなる。ビジネスモデル的にも、広告表示と組み合わせたりすることで広告主を説得しやすいだろう。特に台所事情が厳しい地方局にとっては、『NHKさんがやったのだから』というお墨付きになるのではないか」(同上)。

 これは、もちろん仮定の話である。だが、「インターネット接続している視聴者がまだ多数派ではなくても、投資が済んでいる既存のBMLの枠組みを用いた方がポテンシャルは高い」という理屈は説得力を持つ。

 ハイブリッドキャストには民放の対応のほかにも課題がある。それは、技術仕様の国際化だ。

 これまでのところ、データ放送用のBMLは国内だけで通用する技術仕様にとどまっている。ハイブリッドキャストも同じ轍を踏むのではないかという懸念である。ハイブリッドキャストは国際標準の「HTML5」に対応していることを前面に出しているものの、実際は放送との連携部分で日本の独自仕様が加わっている。「HTML5対応とはうたっていても、パソコン用のWebサービス制作者が簡単にコンテンツを作れるわけではない」との声もある。

 HTML5自体がまだ国際標準として勧告されたものではないと同時に、前述したテレビ向けHTML5の仕様を策定する「Web and TV」の標準化活動は端緒に付いたばかり。各国の企業などから要求仕様を集めている段階だ。

 もちろん、この状況は日本発の技術仕様を国際標準として売り込む好機でもある。10年にわたってデジタル放送で放送通信連携の技術基盤を実運用してきた例は、世界でも類を見ない。うまく売り込めれば、大きな強みになるとの意見は根強い。NHKの加藤氏も「ハイブリッドキャストの要素技術がW3Cでの仕様に組み込まれることを期待している。国内の関連企業が連携しながら国際化を進めていければ」と話す。