民放各局の対応がカギに

 データ放送との第3の違いは、コンテンツを表示する形式にある。データ放送では、放送番組を小さく右上に表示し、左側と下側にL字型にコンテンツを表示する形式が一般的だった。

 今回、NHKは番組映像の上にコンテンツを重ねて表示する、いわゆる「オーバーレイ」の表示形式をハイブリッドキャストで採用した。具体的には、インターネット接続した対応テレビでリモコンの「dボタン」を押すと、データ放送の表示の代わりに画面下側に半透明のホーム画面が表示される。視聴者は、そこからリモコンで閲覧する情報を選択していく仕組みだ。

 オーバレイの表示では、NHK局内でさまざまな議論があったという。「全面にホーム画面を出すという意見もあった。何かが起きたら放送に戻れることや、視聴者の心理的な圧迫感をなくすことを考えて、今回の表示形式を採用した。今後、視聴者の意見を聞きながら、より適切な表示形式を考えていきたい」(桑原氏)。

気象情報を表示したイメージ

 NHKは、今回のサービスと従来のデータ放送を併存させる考えだ。「すべてのテレビがインターネットにつながっているわけではないのが実情。当面は、データ放送をやめることはない」(NHKの加藤氏)という。今後始まる番組連動型のサービスでも、ハブリッドキャストでしか利用できないコンテンツを用意することはないようだ。「ハイブリッドキャストのコンテンツ制作が加わることで労力が2倍になることがないように、コンテンツのマルチユースが前提になる」と、桑原氏は見込んでいる。

 当初は小さなスタートだが、「2~3年後に数百万人が利用するサービスにしたい」と、NHKの期待は大きい。地上アナログ放送の停止による特需の影響で大幅に減少している国内のテレビの販売台数は、今後回復していくはず。その際にハイブリッドキャスト対応機種が普及していくというシナリオを描いている。

 今後ハイブリッドキャストが多くの視聴者の支持を集めるためには、民間放送局の参入が不可欠だろう。各局は技術の開発・検討を進めている。2013年5~6月に開催されたNHK放送技術研究所の公開では、民放キー局を中心に各社のハイブリッドキャストの技術デモが並んだ。ただ、民放各局がハイブリッドキャストのサービス開始に踏み切るには、いくつかのハードルが残っているとの見方が強い。

 例えば、ビジネス面では「オーバレイ表示を番組スポンサーの広告主が嫌うのではないか」と指摘する声がある。番組映像の一部を隠してしまうためである。これまでも放送業界では、オーバーレイ表示について否定的な意見が多かった。仮に広告主や出演者がオーバーレイ表示を受け入れても、今のところ受像機が少ないという「ニワトリと卵」の議論は残る。

 加えて、コンテンツ制作や設備投資の負担も二の足を踏む理由になり得る。デジタル放送に完全移行するための投資がようやく終わりつつある今、特に地方の民放局がどこまで新しいサービスの投資負担に耐えられるかを疑問視する声は根強い。