インターネット接続が前提のサービス

 日本では既に10年以上前から、世界に先駆けてテレビ向けの情報配信や放送番組との連動サービスを提供する技術基盤を実運用している。デジタル放送で提供しているデータ放送である。日本のデータ放送は、通信(インターネット)との連携機能も備えたサービスだ。

 ハイブリッドキャストが、従来のデータ放送と異なる点は大きく三つある。

 第1に、インターネットに接続したテレビ受像機をサービスの前提にしている点だ。データ放送では、放送波に重畳したコンテンツを受信し、それをテレビ受像機に表示する。インターネットに接続したテレビ受像機であれば、さらに詳細な情報やサービスを楽しめるが、放送波で受信したコンテンツだけでも完結できることが基本だ。

スポーツ関連の詳細情報を表示したイメージ

 これに対してハイブリッドキャストでは、放送波にWebサーバーからコンテンツを取得する制御信号を組み込む仕組みを採る。放送波の中で秒単位に指定できる制御信号に基づいて、テレビ受像機はWebサーバーにコンテンツをリクエストする。この仕組みを使うことで、番組内のイベントに応じてWebサーバーからコンテンツを取得できるわけだ。

 第2の違いは、コンテンツの記述言語である。データ放送では記述言語として「BML(broadcast markup language)」を採用してきた。一方のハイブリッドキャストでは、W3Cで策定中の次世代Web記述言語「HTML5」をベースにしている。

 NHKは、これらの変更によって「よりリッチな表現が可能になった」と利点を説明する。放送波に重畳するデータ放送では、データ送信に使える帯域幅の制限で送るデータ量に限りがある。インターネットでの情報配信を前提にしているハイブリッドキャストならば、この制限を気にする必要がない。これに加えて、HTML5対応ブラウザの採用によって「表示できる色や画像の精細度などを高められる。データ放送よりも表現の自由度が高い」と、NHKの桑原氏は話す。

 情報の配信元をインターネットと放送で区分けした結果、放送番組とスマートフォンやタブレット端末向けの情報配信を連携させる、いわゆる「セカンドスクリーン」のサービスも提供しやすくなる。「セカンドスクリーンの活用で全く新しい演出が可能になる。サービスを現在準備中だ」(同氏)という。

 IPTVフォーラムでは、これらの技術仕様を「ハイブリッドキャスト技術仕様ver1.0」の呼び名でまとめている。具体的には、「放送通信連携システム仕様(ver.1.0)」と「HTMLブラウザ仕様(ver.1.0)」などの仕様書から成る。