2013年9月2日、午前11時。放送とインターネットを連携させる新しいサービスが静かに船出した。日本放送協会(NHK)が地上デジタル放送で開始した「NHK Hybridcast(ハイブリッドキャスト)」である。

 ハイブリッドキャストは、放送番組とインターネットのWebコンテンツを連携させるサービスの実現を目指して、NHK放送技術研究所が開発した技術だ。2013年3月には、放送通信連携の技術仕様を検討する業界団体のIPTVフォーラムが、この技術をベースに「ハイブリッドキャスト(Hybridcast)技術仕様ver1.0」を策定した。今回のサービス開始は、これを受けてのものだ。

 今回のサービスは、スタート時点では小さな一歩となった。これまで新しい放送サービスが登場する際には開始当初からテレビ・メーカー各社が対応機種を一斉にそろえ、大きなプロモーションと共に始まることが一般的だった。だが、現状でのハイブリッドキャスト対応機器は東芝の液晶テレビの一部機種のみ。まずは、総合テレビ向けの限定的なサービスとしての開始にとどまった。

ハイブリッドキャストのホーム画面

 「技術仕様に沿ったサービスを早く始めることがオールジャパンでの取り組みにつながっていく。インターネットの世界は、スピードが大切だと考えた。今後、各メーカーから対応テレビが登場することを期待している」。NHK メディア企画室 専任局長の加藤久和氏は、仕様策定から早期にサービス開始に踏み切った理由をこう説明した。

 スピード感を重視した結果、開始時点の第一段階として、ホーム画面の提供とニュースや気象、経済、電子番組表などの情報配信を用意した。ハイブリッドキャストの真価があらわれるテレビ番組との連動サービスは、2013年秋以降に本格化する計画だ。

 放送事業者による同様の放送通信連携サービスの取り組みは、世界的な流れになっている。欧州では、ハイブリッドキャストと同様の規格「Hybrid Broadcast Broadband Television(HbbTV)」を用いたサービスを、ドイツやフランスなどの放送局が始めた。インターネット関連の標準技術を策定するWorld Wide Web Consortium(W3C)も、テレビ放送とインターネットの連携を目指した「Web and TV」と呼ぶ技術の標準化に乗り出している。

 放送通信連携は、放送事業者やテレビ・メーカーはもちろんのこと、米Google社などのインターネット関連企業も興味津々だ。「スマートテレビ」を掛け声に、多くの企業が技術開発を進めている。NHKはハイブリッドキャストを「放送局が主体となる放送通信連携サービス」と位置付ける。「テレビで放映した情報をもっと多面的に知りたいと視聴者は変質している。うまく通信を活用することで、これに応えられる。番組の内容を知っている放送局側が情報を出した方が、分かりやすくなるはずだ」(NHK 編成局 編成主幹の桑原知久氏)と意気込む。