――今、お二方は「3Dデータの活用と開発プロセスの改革を一体的に進めよ」と提唱されているわけですが、裏を返せば従来はそういうことがあまり議論されないまま、3D-CADの導入などが進んでしまったのでしょうか。
新井本氏:設計の中身を考えるエンジニアリングと、設計の成果物を管理するPDM(Product Data Management)の間で分断されている印象があります。もちろん、全体はPLM(Product Lifecycle Management)というコンセプトの下、エンジニアリングの情報を全ての工程で活用することになっています。ただし、これは私見ですが、PDMツールの登録機能や検索機能はどんどん強化されたものの、3Dデータをどの局面でどう活用するかという点は改善の余地がまだまだあります。最近になって、ようやくエンジニアリングとPDMがつながり始めてきたと思います。
鳥谷氏:例えば、従来は工程設計に3D-CADを使っていても、現場用の指示書をそろえる段階では工程の3Dデータから2Dの図面を作った上で、その図面をベースに指示書を作成していました。つまり、3Dの工程設計と2Dの指示書作成というふうに分断されていたのです。製造の現場に3Dデータを使おうという発想そのものがありませんでした。
もう少し具体的にいいますと、指示書作成の担当者は部品の名称や番号を独自に考えて、頭の中で作業をイメージしながら「Excel」で指示書を作っているわけです。「4番の部品に5番を組み付ける」という具合です。そうすると、ベテランの担当者しか指示書を作れなくなってしまいますし、指示書の通りにやっても実際は誰も組み付けられないというような事態が起こり得ます。
そうではなくて、指示書作成も3Dデータで「見える化」しましょうと提案しています。3Dデータを使えば、これまでベテランが頭の中で描いていたことを見える化できるので、新人でも指示書を作れるようになります。しかも、その指示書は3Dでの検証も済んでいるから、指示書の通りにやればきちんと組み付けられます。3Dデータを活用して工程を設計しながら指示書も作ってしまえば、一気に効率が上がるのです。そうした成功事例を積み重ねていくことで、従来は分断されていた工程設計と指示書作成が3Dデータを中心に融合していくでしょう。