卓上スタンドへの採用例。中央部の長細い六角形がセラミック基板である。その上に白色LEDモジュール(四角形で中央部に黄色い円がある)がネジ止めされている。セラミック基板も筐体にネジ止めされている。
卓上スタンドへの採用例。中央部の長細い六角形がセラミック基板である。その上に白色LEDモジュール(四角形で中央部に黄色い円がある)がネジ止めされている。セラミック基板も筐体にネジ止めされている。
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 日経エレクトロニクスではこれまでに、さまざまな機器を分解してきました。チップや液晶パネル、各種電子部品の配置など見どころが多々ある中で「腐心しているなあ」と感じる箇所に、放熱対策があります。ヒートパイプやヒートシンク、均熱シートなどを使って、熱くなりがちな部品から熱を逃がす手法は機器ごとに特徴があり、開発者の意思が伝わってきます。

 こうした放熱対策に今、新たな手法を加えようと奔走する材料メーカーがあります。セラミック材料を展開する西村陶業です。同社が広めようとしているのが、セラミック基板が備える高い熱放射率を活用した放熱対策になります。

 熱対策のコンサルタントであるサーマル デザイン ラボ代表取締役の国峰尚樹氏によれば、熱の伝わり方には「熱伝導」「対流」「熱放射」の三つの形態があります。格子振動の伝播や、金属における自由電子の移動が「熱伝導」、流体が動くことで熱が運ばれるのが「対流」、電磁波を介するのが「熱放射」です。西村陶業が手掛けるのは、セラミック材料からの赤外線の放射によって放熱させようというもの。熱放射を使った放熱については、「Green Device Magazine 2011年冬号」に解説記事を掲載しました。この記事はTech-On!でもお読みいただけます(Tech-On!での連載)。

 熱放射の利点は、筐体が密閉型かつ薄型のために、対流による熱移動が望めない状況で熱を逃がせることにつきます。こうした利点は以前から一部の技術者には知られてきたものの、フルに活用した例は少ない状況でした。しかし、西村陶業に最近の状況を聞いたところ、LED照明機器に使われるケースが増えてきたそうです。中でも、国内のある照明器具メーカーは投光器のような大型LED照明器具から卓上スタンドといった小型なものまで、さまざまな用途で活用しているとのこと。

 投光器の場合、熱放射を使うことで効率良く放熱できるようになり、空冷ファンを使わずに済んだとのこと。空冷ファンを使わないことで故障リスク(空冷が何らかの原因で止まり、放熱できなくなるリスク)を小さく抑えられ、かつラジエータ形状のヒートシンクも不要になったのでホコリがたまることがなく清掃の手間が省けたといいます。卓上スタンドの場合は光源付近の筐体を薄型のデザインにすることができました。

 興味深いのは、西村陶業が照明器具メーカーに対し、大型器や小型器でほぼ共通のセラミック基板を提供していることです。横55mm×縦30mmの横長の六角形をした厚さ6mm程度のセラミック基板であり、その上にマルチチップ・タイプのLEDモジュールをネジ止めして使います。最大19Wを投入できる高出力LEDモジュールにまで対応できるそうです。大型器はLEDモジュールをネジ止めしたセラミック基板を複数個、小型器は1個使うといった形になります。セラミック基板の材料は純度99.7%のアルミナであり、熱放射率は0.97あります。表面の平均粗さは0.5μmと平坦で、そこにLEDモジュールを載せてネジ止めします。

 セラミック基板は、金属基板やプリント基板などに比べればコストが高いのがネックです。しかし、セラミック基板を共通化することで量産効果が高まれば、コスト上昇をある程度抑えることができるでしょう。それには量産数量を増やす必要がありますが、現時点では大量生産という段階ではないようです。どうしても、セラミック基板のコストの高さが懸念材料になるからです。

 そうした見方に対し、西村陶業は放熱に関わるコスト、つまりLEDモジュールを実装する基板やヒートシンクなどの放熱部品全体のコストを低くできることを訴求したいと言います。同社製品を採用した照明器具メーカーは、必ずといっていいほど従来の放熱設計で設計した器具と比較し、その上で全体コストを鑑みてセラミック基板の採用を決断したことが、西村陶業の自信につながっています。全体コストを抑える考えが浸透するかどうか、今後注目したいところです。スッキリした形状のLED照明器具が増えるかどうかをみると、その浸透具合を予測できるかもしれません。

 なお、熱設計については日経エレクトロニクスの2013年9月16日号からコラム「NEアカデミー」にて連載を始める予定です。ご興味がありましたら、ぜひご覧ください。