第1回の優勝は加速度センサを内蔵した枕がTwitterに書き込む「ねいったー」、第2回は授業の理解度を把握できる「リアルタイム授業支援システム」、第3回は飲食店での注文に向けた「セルフオーダーシステム」。2013年に開催される第4回では、いったいどのようなアイデアが出てくるのか――。

 学生向けの組み込み機器開発コンテスト「D2C(Device2Cloud)コンテスト」(主催:東京エレクトロン デバイス)の話です。クラウドにつながりながら動作する組み込み機器の企画・開発・プレゼンテーションで競うコンテストで、ビジネスと技術の両面での学生の育成を目的としています。「第3回は16チームが参加したが、今回は20チーム以上の参加を期待している」(同コンテストの運営に携わるアフレルの渡辺登氏)そうです。

 D2Cコンテストでは、「i.MX25」を搭載するアットマークテクノ製のCPUボード「Armadillo-440」をメイン基板として利用し、OSとして「Windows Embedded Compact 7」または「Linux」を使ったソフトウエアを開発します(今回からLinuxの利用が可能になりました)。サブ基板としてセンサ・ボードを利用したり、ハードウエアを改造したりすることも許可されています。

 このコンテストのユニークな点は、クラウド・サービスの利用を必須としている点です。既存の第三者のWebサービスと、新たに自作したWebサービスのどちらを利用しても構いません。これからのエレクトロニクス機器は、クラウドとの連携が前提になるはずです。今回のコンテストで、エレクトロニクス企業に刺激を与えるような学生らしい斬新な発想が出てくることを期待しています。

機器ならではの価値

 エレクトロニクス企業の不振が続き、SNSなどのWebサービスを手掛ける企業が脚光を浴びる中、「機器からクラウドに付加価値が移ってしまった」と考える人も多いでしょう。しかし、機器にはまだまだ大きな可能性が残されていると思います。むしろ、クラウドの発展が機器を進化させ、機器の市場を大きくするのではないかと筆者は考えるようになりました。

 ロボット関連技術の開発に携わる産業技術総合研究所の中坊嘉宏氏は、「現在のITには、空間や周辺環境に物理的に働きかけるアクチュエーション機能が不足している。そこで、介護ロボットや自動運転車が、ITインフラと現実世界のインタフェースとして置かれるようになる」と語っています(『日経エレクトロニクス』2013年9月2日号に、中坊氏の寄稿を掲載します)。

 機器の強みは、人や社会と密に接することです。現実空間の情報を集めたり、現実空間に作用を及ぼしたりする機能の重要性は、クラウドの進化に伴ってますます高まるでしょう。スマートフォンのような汎用端末とは別に、現実空間とITの接点として多様な機器が置かれるはずです。

 D2Cコンテストのような取り組みが続いているのは、国内のエレクトロニクス産業に「クラウドとの接続を前提として機器の役割を見つめ直す必要がある」という意識が根付いていることの表れだと思います。クラウドだけでも機器だけでもできない、新しい「機器+クラウド」の姿をエレクトロニクス企業がどんどん提案してくれることを期待しています。