毛沢東、そして毛沢東思想はご存じですか--。

 毛沢東(1893年12月26日~1976年9月9日)は、1949年の中華人民共和国の建国における最大の功績者で、中国の近代史において最も大きな影響を与えた政治家、思想家、軍事家、戦略家である。毛沢東思想とは、いわゆる、毛沢東を中核とする中国共産党が創立した政治思想だ。1978年に中国で「改革・開放」という基本国策が取られるようになって以来、中国は市場経済主導の体制に切り替わってきた。このことから、毛沢東や毛沢東思想は既に過去の存在と思われるところがあるが、実は、依然として中国の経済、社会に影響を与え続けている。

 今回は、政治の視点ではなく、中国の企業と実業家はいかに毛沢東思想の真髄を理解し、活用して、経営での成功を収めたのかを分析しながら、毛沢東思想と中国ならではのイノベーションの関わりについて探ってみる。

毛沢東思想とは

 毛沢東思想とは、簡単に言うと、カール・マルクスとウラジーミル・レーニンが確立した社会主義や共産主義の基本原理に基づき、中国共産党が中国の実情に適合するように実践してきた経験を、理論的に総括した指導思想とのことだ。その中核となっているのは、以下のような考え方とされる。すなわち、
(1)大衆路線:中国社会の基盤となる農村大衆をベースに指針を決める
(2)実事求是:現場や現実から学んでロジックを立てる
(3)人民戦争理論:農村からスタートし、次に都市を囲いこんでいくという戦術論
などだ。

 この毛沢東思想の源泉となったのが、毛沢東が若いころから親しんできた農村社会におけるさまざまな観察や体験であり、それらから導き出された理論といえる。マルクス主義では、社会主義革命は本来、発達した資本主義社会から発生するものという立場。しかし、当時の中国は、資本主義が未発達で農業が中心の社会だった。毛沢東は、農村重視の姿勢を打ち出すことで社会主義・共産主義を中国の実情に適合させた。この点が、毛沢東思想の最大の特徴であり、毛沢東思想の最大の成功要因にもなった。