販売後の製品や自社の生産設備から日々生み出される膨大なデータ、いわゆるビッグデータが製造業に変革をもたらそうとしています。『日経ものづくり』2013年7月号特集「攻めのビッグデータ活用」では、データ活用の方向性を[1]自社の業務に役立てる、[2]顧客の利便性を高める、[3]新たな価値を生み出す、の3つに分類しました。そのうち[1]と[2]は既に多くの取り組みが進んでいるのに対し、[3]の事例はそう多くありません。しかし、製造業に与えるインパクトの大きさという点で個人的には[3]に期待しています。

 [3]の事例として日経ものづくりの特集で取り上げたのは、日産自動車の電気自動車「リーフ」と、その所有者を対象とした損害保険ジャパンの個人用自動車総合保険「ドラログ」です。ドラログでは、走行距離に応じて自動車保険料を増減させたり、安全・環境の観点から運転履歴を分析したりするサービスを契約者に提供します。これらのサービスに必要なデータは、日産自動車が車両から取得した上で損害保険ジャパンに送っています。

ドラログ契約者が分析データなどを閲覧するためのWebサイト
画面は開発時点のもの。

 日産自動車は、自社のテレマティクス・サービスでも走行データの分析結果に基づいたサービスを提供してきました。ドラログの事例は、そのデータを他社に提供したという点でこれまでのサービスから一歩踏み込んだものといえます。

 自動車メーカーにとって走行データは“虎の子”ですから、一部とはいえそれを他社に提供することには懸念もあったはずです。しかし、走行データが損害保険ジャパンの知見と融合することで、新たな価値が生まれるというメリットを優先させたといえます。損害保険ジャパンがリーフ向けに価値の高い保険商品を販売するようになれば、リーフ自体の価値も高まるからです

 厳密には、ドラログの対象はリーフに限定されているわけではありませんが、対象車は「常時通信することが可能な所定の情報通信機器を搭載した電気自動車」となっており、現時点ではリーフを想定した保険商品となっています。

 今後は、このようにビッグデータを媒介とした提携・協業が増えていくと考えられます。自社内での活用だけではなく、他社や他業界の知見と組み合わせてデータの価値を高めるという視点も重要になりそうです。