実機レスで大半のデバッグが検証可能に

 同社は、実際の開発にこの実機レス・デバッグ・システムを適用し、開発期間の短縮効果と効率向上の効果を検証した。準備に1.5日を費やしたものの、実機によるデバッグ期間がこれまでの20日間から8日間へと約60%短縮できたという。また、制御ソフトの開発効率も15%向上した。これは、単体試験がVmech上でできるので、問題の複雑化を回避できたためと同社では推察している。

 さらに、多くの製造設備開発に適用して、効果を算定したのが図5である。このグラフでは製造装置ごとに、実際のデバッグ工数のうち、実機でデバッグした時間と実機レスでデバッグした日数の合計を示している。このグラフが示すように、搬送実験装置のように100%実機レスでデバッグできているものもある。平均すると、全体の約56%のデバッグを実機完成前に行えた。当初は45%だったが、システムの完成度が上がり、かつ、ユーザーが操作方法に慣れたことから、この比率は上がり続けているという。実機レスでかなりの部分のソフト検証ができることが実証されたのである。

図5●各製造装置ごとのデバッグ(実機、実機レス)工数
図5●各製造装置ごとのデバッグ(実機、実機レス)工数
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 新製品の開発には、今までになかった特殊な設備を必要とすることが多い。新たな製造プロセス用の設備にも機械と電気に開発要素があり、さまざまな調整が必須だ。Vmechのようなシミュレータを導入することで、ソフト開発に必要な実機占有期間を短縮できる。つまり、ハードの調整に十分な時間を確保することで、設備開発全体のスケジュールを短縮可能になる。少しでも量産開始の時期を前倒しできれば、製品の市場投入の時期を早めることが可能となり、ビジネスチャンスを大きく広げる。同社は、PCでの制御に加え、PLCで制御される製造設備へのVmech適用も始めている。

 このシステムは図6に示すように、初心者への教育にも有効な手段である。教育用の仮想設備を準備しておけば、たとえバグがあっても実機を破損する心配はないので、初心者でも安全かつ効率的に制御ソフトを学習できる。さらに、同社はシステム改善によって効果を増大させるとともに、構想設計などの上流工程にも適用する計画である。

図6●実機レス・デバッグ・システムの教育への適用
図6●実機レス・デバッグ・システムの教育への適用
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 同社の最新の取り組みを紹介しよう。VmechにはDCMLという動的なシミュレーションをするための言語が組み込んであり、設備で発生する振動を表現できる。一方、ANSYSのような機構シミュレータで設備モデルを解析すると、構造特性データが得られる。このデータを利用して、DCMLにより設備の振動を再現すれば、制御ソフトからの駆動指令により発生する振動の影響をVmech内で確認できる。その結果として、振動まで考慮した最適な制御方法を採用できたという。

 同社メカトロニクス開発センター・センター長の宮内孝氏は、期待を込めてこう語る。「Vmechの活用の幅をもっと広げたいのです。そのためには、上流の3D-CADとシームレスな接続ができ、かつ、アクチュエータやロボットなどの産業機器メーカーがVmechのエミュレータを提供してくれることが理想です。これで設計上流でのメカとソフト統合検証が容易になるばかりではなく、産業機器の特性まで考慮した検証が可能になり、その適用範囲がさらに広がるでしょう」。関係するメーカーの協力でシミュレーション環境を充実できれば、Vmechの適用領域をもっと拡大できるのである。