東芝は2013年8月に開催した経営方針説明会で、エネルギーとストレージに続いて「ヘルスケア」を第3の事業の柱に据える方針を打ち出しました。同社 代表執行役社長の田中久雄氏は、「医療費の増大が先進国と新興国のいずれでも大きな課題となっていることに加え、今後は画像診断に限定されない新しい診断・治療技術が確立される見通しで、ここに大きな商機がある」と期待を込めます(関連記事)

 東芝がヘルスケア事業で2015年度に計画する売上高は6000億円。同じく大手エレクトロニクス企業としてメディカル分野をコア事業に据える方針を掲げるソニーが、「2020年にソニー・グループ全体で2000億円以上の売り上げを目指す」(同社 代表執行役 社長兼CEOの平井一夫氏)としているのに対して、より早期に、そしてより大きな事業規模を見込んでいます(関連記事)

 その背景には、X線CT装置などの画像診断装置を手掛ける東芝メディカルシステムズというグループ企業が既に一定規模の事業を構築していることがあります(同社の2012年度の売上高は2774億5000万円)。さらに、東芝本体において、重粒子線治療装置といった単価が極めて高い製品分野を手掛け始めたことも理由の一つと言えるでしょう(関連記事)

 とはいえ、2015年度に売上高6000億円を実現するためには、新たな事業の創出も不可欠です。最近では、東芝ソリューションがITを活用した健康シニア向けヘルスケア事業に参入することを発表しました(関連記事)。一方、東芝本体ではウエアラブル生体センサ「Silmee」の事業化を計画しています(関連記事)。東芝が以前からDNAチップ事業を手掛けていることも周知の通りです(関連記事)。もちろん、同社の田中社長が示唆しているM&Aの活用も、売上高拡大の一つの手段となりそうです。

 これらに加え、筆者が期待しているのは、今回の経営方針を契機としたグループ企業のさらなるノウハウの融合です。筆者はこれまで、東芝本体にも、東芝メディカルシステムズにもヘルスケア事業に関して何度も取材をする機会がありました。この両社が持つノウハウの融合です。もちろん、半導体の微細加工技術を生かした多列検出器を搭載するX線CT装置など、両社のノウハウを融合させた製品は幾つか頭に思い浮かびますが、もっとさまざまな融合製品が出てきても良いのではないかと、かねて感じていました。

 前出のソニーは、医療用の周辺機器事業は手掛けていたものの、東芝メディカルシステムズに相当するグループ企業を持っていなかったことから、オリンパスとの提携を選択しました(関連記事)。その合弁会社であるソニー・オリンパスメディカルソリューションズ 代表取締役 社長の勝本徹氏(ソニー出身)にインタビューした際、筆者は次のような同氏コメントが印象に残っています。

「これまでソニーだけで考えていた際は、青は青、黄色は黄色、といったように色を忠実に描写すれば、その技術は医療にも生かせるものだと考えていました。しかし、オリンパスと一緒になって分かったことは、赤い血液の中に赤い血管がどう見えるのか、白い骨部分の白い神経がどう見えるのか、といった独特のニーズの存在です。単に、忠実に再現すればよいという世界じゃないというのが、大きな発見でした。しかし、いったんこのようなニーズを把握してしまえば、それを具現化する技術の引き出しはソニーにありますから」

 これと同様な環境、つまり一定のシーズとニーズは東芝グループ内に蓄積されているはずです。ただし、その有効活用は必ずしも十分ではなかったように、これまでの取材からは感じています。逆に言えば、その分今後への期待も膨らみます。前出の会見では、田中社長が「『裸眼3Dテレビ×X線CT装置』による裸眼3D表示可能なX線CT装置の実現」といったキーワードを挙げました。これをはじめとして、今回の経営方針をキッカケにさらなるノウハウの融合が進展することによって、“東芝らしい”ヘルスケア事業が登場してくることを期待したいと思います。

 なお、東芝が開発を進めるウエアラブル生体センサ「Silmee」については、日経エレクトロニクスとデジタルヘルスOnlineが2013年9月6日に大阪で開催する「次世代医療機器サミット2013 in 大阪」において講演していただく予定です。