航空機産業の構造変化動向とPLMシステムフレームの変化動向

 航空機産業は、欧米の巨大なプライムOEMを頂点として、自動車の約100倍、約3万点を対象とする広範な部品サプライヤーを従える典型的な垂直統合型の産業構造であり、先進国では深く根を張った産業といえる。しかし、この四半世紀の間に、軍需の低下、競争激化による巨額な開発投資リスク分散の必要性から産業構造が変化しつつある。それは、最上位のプライムOEMと主要なコンポーネントを担当していた有力サプライヤーが、初期段階から投資やリスクも応分に負担する共同開発パートナー関係を作る、という大きな構造変化である。

 従って最近では、プライムOEMは航空機インテグレーターと呼ばれ、航空機(システム)としてのトータルなシステム・インテグレーターの位置付けであり、共同開発パートナーは主要な構造(胴体、主翼、エンジン、アビオニクスなど)のサブシステム・インテグレーターとして、コンポーネント・サプライヤーからのコンポーネントを束ねて統合化・検証してOEMに納入する。この考え方の階層化は、ある航空機会社の新機種開発プロジェクトで始まったもので、初めての取り組みであるためさまざまな課題があったようだが数年前に終了し、その後の航空機産業の標準的スタイルとなっている。下位層には部品・素材サプライヤーが世界的に多数存在し、競争にしのぎを削りながら、1つ上位の階層への昇格、あるいは他のサブシステム・インテグレーターへのサプライヤーになることを狙っている。

 このような構造の航空機産業のPLMシステムフレームを、上位階層の視点から図2に示す。

図2●航空機産業におけるPLMシステムフレームの特徴
図2●航空機産業におけるPLMシステムフレームの特徴
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 ここでの特徴は、[3]に示す統合化されたCAD・PDM・PLMのシステムをプライムOEMが指定し、下位の共同開発社、コンポーネント・サプライヤーまで統一的に使うことで、世界規模で広がる垂直統合的な業務を最適化してきたことである。統一システムであっても開発期間は5年程度を要するので、その間の多数システムのバージョン管理、データ管理は並大抵ではないと聞く。

 業務層については筆者も詳細を知り得ていないが、よく知られている業務要件はプロジェクト管理(ベース機種開発のフェーズと、航空会社の注文仕様に従った派生機種の設計、納入するまでフェーズの2種類)と、もう1つは航空産業固有の型式証明取得規定に則った品質工程管理規定関係の膨大な関連書類や操作・保守マニュアルなどのオブジェクトの管理であろう。通例、これらにPLMツールが直接使われることはなく、専用パッケージソフトが使われている。

 さらに、航空機産業には航空運送会社に航空機を納入した後、MRO(メンテナンス・修理・整備)と呼ばれるプロダクト・サポート・サービスのための巨大なビジネスモデルが存在するが、それに関してBOM情報をベースとした連携があるはずである。[1]の層には、MROシステムから得られる寿命・耐久、異常、修理履歴などの貴重なデータの収集・分析から、ノウハウ、マーケティング情報を得て活用する仕組みがあるものと想像される。