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「考え方の考え方」を身に付けるためのワークショップ

ものづくり塾「新事業モデルの確立と試作品の作製をリアルなテーマに基づいて実践」開催報告

高野 敦=日経ものづくり
2013/08/13 00:00
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 画期的なアイデアをチームで生み出すための手法「デザインシンキング」。2013年7月3日に開催したワークショップの参加者には、当日の朝に初めて出会った人たちと一緒に全く新しい製品のコンセプトを夕方までに考案するという、ハードな活動に挑んでもらいました。

 デザインシンキングの専門家集団である慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の講師陣から参加者に課されたテーマは「男性用美容家電」。そもそも美容家電は女性向けが圧倒的に大きな割合を占めていますが、最近は比較的若い層を中心に身だしなみに気を遣う男性も増えており、今後の成長が期待される分野です。今回、参加者は4~5人から成るチームに分かれ、斬新な男性用美容家電のコンセプトを考案するという課題に取り組みました。

計8チームが男性用美容家電というテーマで斬新なコンセプトの創出に挑みました。

 製品コンセプトを確立するまでの手順は、大まかに以下の通りです。

  • 問題定義のためのインサイト
  • イノベーションのための解空間の拡張
  • コンセプト・コアの構築
  • コンセプトの評価と可視化

 それぞれについて、ワークショップで実際にどのようなツールを用いたのか、簡単に説明していきます。

問題定義のためのインサイト

 男性用美容家電は、どのような場面でどのように使われているのか。まずそれを知らなければ、新製品のコンセプトを考案することも不可能です。そこで、例として「平日朝の出勤前」という状況を設定し、そこで男性が美容家電を用いて何をしているのか(ユースケース)と、そのときに男性が何を思っているか(顧客の声、VOC)を洗い出します。その際、こうしたシーンを単純に想像するのではなく、ブロック玩具(レゴ)を用いて男性用美容家電の「プロトタイプ」を作り、手を動かしながらユースケースやVOCを挙げていくというのがポイントです。

 このようにユースケースやVOCを洗い出していくことで、適切なコンセプトにたどり着くためのインサイト(気付き)が得られます。現状の問題を把握しているからこそ、それを解決するためのコンセプトを考案できるのです。

ブロック玩具による「プロトタイピング」で洗い出したユースケースとVOCを付箋紙に書き出していきます。

イノベーションのための解空間の拡張

 問題の姿が見えてきたら、それを解決するコンセプトの考案に移ります。ワークショップでは、その第1段階として「ブレーンストーミング」を用いました。ブレーンストーミングは非常に有名な手法ですが、それをアイデア発想法と見なすのは早計です。集合知を生かして1つのアイデアから別のアイデアを連想し、個人の固定概念を突破するところに、ブレーンストーミングを活用する意義があります。思考の枠外に飛び出る、言い換えれば「解空間の拡張」によってイノベーションに近付けるのです。

 今回のワークショップでは、「男性用美容家電に期待する効果・効用」というテーマで各チームがブレーンストーミングを実施しました。さらに、ブレーンストーミングで出てきたアイデアを2軸の座標系(2×2、ツー・バイ・ツー)によって分析することで、新たなインサイトを獲得・共有できます。「2×2」の座標軸には、「自分/他人(への効果)」「持続性/速効性」といった対になる評価軸を選んでいきます。こうした過程を経ることで、自分たちが具体的にどのような市場を狙うのかが見えてきます。

ブレーンストーミングで得られたアイデア(男性用美容家電に期待する効果・効用)を「2×2」に並べているところです。ちなみに、出てくるアイデアとしては、やはり“モテ”を意識したものが目立ちます。美容家電というジャンルに鑑みれば必然なのでしょうか。

コンセプト・コアの構築

 ここまでくると、コンセプトがおぼろげながら見えてきます。しかし、ここに落とし穴があります。多くの人は、最初に決めたコンセプトに固執してしまい、実際は顧客の抱えている問題に対してもっと良い解決法が存在するにもかかわらず、なかなか当初のコンセプトを捨てられないのです。

 より良い解決法に到達するために有効なアプローチは、当初のコンセプトの狙いに対してさらに上位の目的を考えることです。「なぜ?」という問いを繰り返して上位の目的をさかのぼっていくことで、顧客に提供しようとしている価値も明確になり、当初のコンセプトへのこだわりは自然と薄らいでいくからです。そのためのツールとして「バリューグラフ」を用いました。

 この他、ブレーンストーミングのアイデアを類似性によって分類する「親和図法」を用いたり、あらためてユースケースを議論したりすることで、コンセプトの精度を高めていきます。

「バリューグラフ」でコンセプトの上位目的にさかのぼっていきます。

コンセプトの評価と可視化

 このようにして確立したコンセプトが本当に適切か、評価する必要があります。そのためのツールとして、ワークショップでは「ピュー・コンセプト・セレクション」を用いました。ピュー・コンセプト・セレクションでは、複数のコンセプトの中から1つを基準(DATUM)に定め、あらかじめて選定した評価項目についてこの基準と比較する形でそれ以外のコンセプトを評価していきます。ポイントは、基準とするコンセプトを入れ替えて何度も行うことです。ワークショップでは、自チームのコンセプトと隣のチームのコンセプト、講師陣が提示したコンセプトの3つについてピュー・コンセプト・セレクションを実施しました。

 ピュー・コンセプト・セレクションの目的は、評価したコンセプトの中から最適解を選ぶことではなく、あくまでコンセプトを磨き上げることにあります。実際の製品企画や開発では、ピュー・コンセプト・セレクションの結果を頻繁に見直し、コンセプトがぶれてないかどうかを確かめる効果もあるそうです。

 ワークショップでは、この他に「顧客価値連鎖分析(CVCA)」というツールも用いました。CVCAでは、そのコンセプトによってステークホルダー(この場合は顧客やメーカー、販売店など)にどのような価値をもたらし、その価値がどう連鎖していくのかを可視化するものです。CVCAでは、金銭的な価値の連鎖からビジネスモデルの妥当性を判断したり、非金銭的な価値の連鎖から製品の訴求点を見いだしたりすることが可能です。

隣り合うチーム同士が「ピュー・コンセプト・セレクション」でお互いのコンセプトを評価しました。
「顧客価値連鎖分析(CVCA)」でコンセプトがもたらす価値の連鎖を可視化していきます。

 以上のように、ワークショップは非常に盛りだくさんな内容でしたが、最終的に各チームが生み出したコンセプトは、「家族で一緒に使えるスチーマー」「ニオイが見える歯ブラシ」「スマートミラー」など、どれも対象顧客や効用がはっきりしている面白いものばかりでした。もちろん、それを実際に製品化するまでにはさらに長い道のりを要するわけですが、今回のワークショップの狙いはこうしたコンセプトの考え方を身に付けていくことにありました。「考え方の考え方」さえ押さえておけば、どんな時代や市場にも対応できる。それが、講師陣の伝えたかったメッセージです。

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