「血圧や脈、体温を計測しても、ガンや血栓の兆候は捉えられないのと同じように、加速度や表面温度を測っても、インフラが本当に劣化しているかどうか判断できない」。

 日経エレクトロニクスの2013年8月5日号で久米記者が執筆した「インフラ監視、期待と現実」の取材の幾つかに同行しました。取材前にはセンサや通信モジュールなど、エレクトロニクス企業が、さぞや活躍できる場があるだろうと期待していたのですが、話を聞けば聞くほど、厳しい現実を突きつけられました。冒頭の発言は、それを象徴するあるインフラ監視技術の研究者の方のお言葉です。

 取材を通して分かったのは、インフラ監視のために、そもそも何を計測すればよいか分かっていないという状況です。例えば、橋。コンピュータのモデル上は、振動を計測すれば、異常が判断できそうなことが分かっています。しかし、実際の建築物では、滑るとして設計したところが滑らないなど、モデル通り建築されていなかったり、温度や湿度によって全体の特性が変わったりと、シミュレーション通りにはいかないようです。もちろん、温度、湿度、加速度、風の流れなどさまざまなデータを採り、これらの値と劣化の相関が分かればいいのでしょうが、このための数学モデルができていないとのことです。

図 NMEMS技術研究機構は自立電源型の超小型無線センサ端末を大量配置して面パターンで異常を検出するシステムの実験を計画している。センサに応力が集中すると自己発電をしてセンサのIDを送信する。

 一方で、この状況のままとどまっているのは、技術的に不可能というわけではなく、これまで手付かずだったからだとも感じました。産業技術総合研究所や東芝、三菱電機、ロームなどが参加するNMEMS技術研究機構などが、今まさに取り組みを始めています(図)。エレクトロニクス技術でインフラを監視する時代を迎えるまでにはまだ長い道のりが必要ですが、技術者の奮闘に期待したいです。