デバイス 半導体や電子部品を使い倒す
 

第3回 無線屋さんのおしごと(3)

佐々木 勇治=サイレックス・テクノロジー
2013/08/09 00:00
印刷用ページ

 前々回前回と「無線LAN はチップ買ってきて基板に貼り付けてドライバ入れれば動く、というものでもない」という話をしてきました。しかしこういう話をすると「じゃあ、何をどうすれば『動く』と言いきれるの?」という疑問が出るかもしれません。あるいは「いやしくも国際工業標準規格にのっとって作られているはずの製品に、相性だの互換性問題だのがあるなんて、そんなの何か間違っている」と思われるかもしれません。

 無線 LAN の標準仕様は「米国電気電子学会(IEEE)」の定めた規格に基づいています。例えば通称「IEEE802.11」と言われる無線 LAN については

IEEE Standard for Information technology
Telecommunications and information exchange between systems
Local and metropolitan area networks
Specific requirements Part 11: Wireless LAN Medium
Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications

という長いタイトルの規格書で定められています。この規格書は全部で 512 ページもあり、電気的特性やら変調精度やら、パケットの定義やらプロトコル状態遷移図やら、微に入り細をうがって記述されています注1)。そんな立派な規格書があるのなら、世の中の無線 LAN 製品すべてがこれを厳守している限り、相性問題だの互換性問題だのは出ないはずですね。しかし幸か不幸か、現実に出ている製品では、IEEE規格を100% 間違いなく厳守して実装した製品というのはまれなのです。

注1)厳密に言えばこの仕様書は1M~2Mビット/秒の元祖IEEE802.11に関する仕様で、11Mビット/秒の11bや54Mビット/秒の11a、11gについては高速化部分に関する追加仕様が別途定められています。

規格違反が発生する原因

 この「規格違反」というのがどういう原因で起こり、それがどのように見えるかというと大きく3種類に分けられます。

(1)無線LANチップに存在する実装バグ(エラッタ)
(2)無線LANチップから出力される電波のアナログ的な規格違反
(3)無線LANチップを駆動するドライバの実装バグ

 (1)はLSIチップの設計に起因する問題で、同じ型番のチップでもロットによってエラッタの有無が異なる場合もあります。重大な不具合は出荷以前にほとんど発見・修正されますので致命的問題になることはまれですが、いったん市場に出てしまうとLSI内部の回路は修正できません。こういう場合、大抵はドライバにエラッタ対策のコードを入れての回避が試みられます(チップに内蔵されている機能をあえて使わずソフトで代替処理するとか、チップが無応答になったとき強制リセットをかける、など)。この手の不具合は回避処理がうまく動作している限りユーザーの目には見えませんが、チップ本来の性能を活かしきれないため、カタログ通りの速度が出ないような現象として発現します。

 (2)はLSI本体ではなく、そこから出力される高周波信号をアンテナまで導くアナログ回路や基板パターンの設計・実装に起因する問題です。ここの設計がキチンとできているかどうかによって、同じチップを同じように実装した製品同士でもノイズの大小によって受信感度に差が出たり、あるいは意図的に出力を下げなければ不要輻射を規定レベルに収められない(電波認証が取得できない)という問題が発生します。その結果、カタログ・スペック上では同等性能のはずの製品同士なのに、実運用においては通信速度や距離などの性能に差が出るという現象として発現します。

 (3)はドライバ・ソフトウエアの実装に起因する問題で、最も多く問題が出るところです。例えば無線パケット・ヘッダ情報として規定上は「0」でなければならないビットが、特定条件下で(例えば再送時)「1」になるような不具合です。この場合、1回目の送信が成功すればアクセス・ポイントに接続できるのに、1回目の送信が失敗すると再送パケットでは接続できないという現象が発生します。しかしアクセス・ポイント側でもその異常ビットをいちいち検査しエラー扱いとするか、無視して受け入れるかの実装違いがあるので、「A社のアクセス・ポイントには常に接続できるのに、B社のアクセス・ポイントにはまれに接続できないことがある」という風に発現します。

ここから先は日経テクノロジーオンライン会員の方のみ、お読みいただけます。
・会員登録済みの方は、左下の「ログイン」ボタンをクリックしてログイン完了後にご参照ください。
・会員登録がお済みでない方は、右下の会員登録ボタンをクリックして、会員登録を完了させてからご参照ください。会員登録は無料です。

【9月18日(金)開催】
高精細映像時代に向けた圧縮符号化技術の使いこなし方
~H.265/HEVCの基礎から拡張・応用技術とその活用における心得~


本セミナーでは高品質、高信頼、高効率に製品化するために標準化された高圧縮符号化技術、H.265/HEVCについて、その基盤となった符号化技術の進展から映像・製品特性に適切に圧縮符号化技術を使いこなす上で知っておきたい基本とH.265/HEVCの標準化、実装、製品化に向けた基礎及び拡張技術の理解と活用の勘所等について詳解します。詳細は、こちら
会場:中央大学駿河台記念館 (東京・御茶ノ水)

マイページ

マイページのご利用には日経テクノロジーオンラインの会員登録が必要です。

マイページでは記事のクリッピング(ブックマーク)、登録したキーワードを含む新着記事の表示(Myキーワード)、登録した連載の新着記事表示(連載ウォッチ)が利用できます。

協力メディア&
関連サイト

  • 日経エレクトロニクス
  • 日経ものづくり
  • 日経Automotive
  • 日経デジタルヘルス
  • メガソーラービジネス
  • 明日をつむぐテクノロジー
  • 新・公民連携最前線
  • 技術者塾

Follow Us

  • Facebook
  • Twitter
  • RSS

お薦めトピック

日経テクノロジーオンラインSpecial

記事ランキング