「日経ものづくり」2013年8月号の特集記事「難加工材に挑む」では、セミナー「ものづくり塾・切削加工」で講師を務めていただいている松岡甫篁氏に、難削材加工の最新動向についてご寄稿をいただきました。その打ち合わせでのこと…、

(松岡氏)「工具の切れ刃って、本当はちょっとチャンファーを取った方がいいんですよね」

とお話しになりました。すぐには意味が分かりませんでした。

(私)「…えーと、チャンファーって、何でしたっけ?(まさか「面取り」では…)

(松岡氏)「面取りのことですよ。切れ刃って尖らせればいいってもんじゃないんですよ」

(私)「…切れ刃に面取りですか? どこの面を取るんでしょう?…(1カ所しか思いつかない…)

 「山月記」で知られる小説家・中島敦(1909~1942年)の「名人伝」には、弓道を極めた名人が晩年「枯淡虚静の域に入り」、やがて弓そのものを忘れ果ててしまう描写が出てきます。何やら、それを読んだときの記憶が頭をよぎりました。切削も名人になると、刃物を忘れてしまうのでしょうか。切れ刃に面取りを施したものを、世間では切れ刃とは呼ばないような気がしますが。

(松岡氏)「尖らせたって、すぐ欠けるし、熱にも弱くなるでしょ。あんまりいいことないんですよ」

 では、なぜ切れ刃にチャンファーを取っても切削が可能なのか。この先はぜひ、特集記事をお読みいただければ幸いです。

 松岡氏の寄稿で締めていただいたこの特集は、事例の取材時に国内企業の技術開発が確実に進んでいる様子が分かって、大変楽しく興味深いものでした。今“流行り”の超硬合金はもちろん、セラミックス、アルミナ、炭素繊維強化樹脂(CFRP)、インバー、チタン合金といった材料が出てきます。硬い材料の話だけではなく、ゴムの高精度な切削加工もカバーしています。

 事例の中心は切削加工ですが、プレス加工や放電加工などでも難加工材への取り組みが進んでいるようです。継続して、ウォッチしていきたいと考えております。