本稿では、消費行動に関する分析と、ポスト「ルイス転換点」時代に関する考察を紹介しておきたい。

 まず、本書では新移民たちの消費能力を大変重視している。農村の消費は頭打ちであり都市人口の増加の余地は限られているからだ。一方、新移民たちは収入が高くても貯蓄志向が高く、仮に100元収入が増えた場合でもそのうち消費に回すのは9.7元で、あとの90.3元は貯蓄するというデータが出ている。また、同年代の都市市民に比べて、新移民は食品とギフトに対する消費が少なく、娯楽に関する消費がすこぶる(約2.5倍)多い。また、その中でも都市から都市へ移住した移民の娯楽費は特に高い。また一方生涯教育にかける費用も多く、本書では「都市の新移民家庭の消費傾向は合理的で、発展型消費と娯楽型消費への欲求が高い」と述べている。一方で社会保障体制が整っていない影響で医療保険費が都市市民に比べ高い傾向も見て取れる。

 また、本書では新移民を、「民間企業の発展に欠かせない労働力」として位置づけている。その民間企業の成長は著しく、本書に挙げられているデータでは固定資産への投資の割合が2004年には国有系企業が75.9%、外資系企業が11.8%、民間企業が12.3%であったが、2011年ではそれぞれ40.1%、6.2%、53.7%と民間企業の投資割合が急増している。2013年の調査では新移民のうち約63%が民間企業に勤めており、急成長する民間企業を支えるのが新移民の労働力だということを裏付けている。また、急速に高齢化が進む中国において、労働人口は減少し続けるであろうことが予測されており、出生率も1.5と1.6の間を推移するだろうとみられている。その結果、予想されるのは、労働力不足、ストライキの多発、給与の高騰である。長らく中国は余剰労働力が豊富で、その結果として世界の工場と呼ばれるようになった。そのこと自体はいいことでもあったが、そのため労働者の収入は低く抑えられてきた。だが今ルイス転換点を迎え、状況は変わった。今後は労働者の待遇も向上するであろう、と本書では見ている。

 このように、変化する中国社会において、1億5000万人を超える新移民は比率としては高くはないが、今後の成長の方向などを見る上でポイントとなる存在であり、我々日本人も彼らの動向を気にとめておく必要があるだろう。