「ご説明が不十分だったというお叱りを頂戴し、お客さまには大変なご心配をおかけいたしました」(リリース文より)――。「Suica」に関するデータを社外に提供する事業に関して、東日本旅客鉄道(JR東日本)が釈明を迫られる事態となりました。

 事の発端は、日立製作所が2013年7月に始めた「交通系ICカード分析情報提供サービス」にあります。JR東日本からSuicaの利用履歴に関する情報の一部を受け取って分析し、駅周辺のマーケティング資料を作成・販売する事業です。

 JR東日本が提供するのは、SuicaのID番号を変換した識別番号と生年月、性別、乗降駅名、利用日時、鉄道利用額です。さらに、これらのデータについて日立製作所は、個人の行動を特定できないように、集計結果が少ない場合の数値表示やグラフ化を実施しません。

 このためJR東日本は、「個人を特定することができない情報であることから、提供について約款等への記載や個別の許諾をいただいておりません」(リリース文より)と説明しました。しかし、あまりにも批判を受けたことから、「ご要望のお客さまには、社外への提供分から除外できるようにいたします」(リリース文より)と、発表せざるを得なくなったのです。

 今回の乗降履歴などの個人に関する情報「パーソナルデータ」については、ビッグデータの中でも特に利用価値が高いと注目が集まっています。しかし、今回の騒動で明らかになったように、プライバシーの保護との両立が難しいため、トラブルが表面化する事例が増えています。

 「個人を特定できないように処理しているため、個人情報に該当しない」とする事業者と、「処理の手法は適切か」「万が一でも個人が特定されてしまうことはないのか」「何となく不安だ」とするユーザーの間の相互理解が進まない状況です。事業者側には、ユーザーの納得感を得るための努力が求められています。

 政府は、この状況を打破しようと、パーソナルデータの利活用の推進に向けて動き出しました。「IT総合戦略本部」は、パーソナルデータの利活用のルールを明確化するとともに、2013年中に制度見直しのロードマップを策定する計画です。

 宝の山であるパーソナルデータの利活用がどのように進んでいくのか。多くの事業者が、議論の成り行きを見守っています。今後の方向性は、2013年5月に経済産業省と総務省がそれぞれ公表した報告書が参考になりそうです。例えば総務省は、パーソナルデータの取り扱いに関して迅速に処理する「プライバシー・コミッショナー制度」の創設を提言しています。

 日経エレクトロニクスでは、今後どのようにパーソナルデータの利活用が進んでいくのか、先行する世界の取り組み状況はどうなっているのか、などについて解説するセミナー「パーソナルデータ利活用に向けた課題と解決策~個人情報/プライバシーの保護との両立へ~」を開催予定です。関心のある方は、ぜひご参加ください。