2013年7月の最終日の夕方。香港に隣接する中国広東省深センで、あるEMS(電子機器受託生産サービス)企業の取材を終え、その足で、深センの電気街で「中国の秋葉原」とも呼ばれる華強北に向かった。目的は1つ。まだ発売されていないどころか、本当に製造されているかどうかも定かでない「廉価版iPhone」が、雑居ビルにひしめく小さな店舗のどこかで、フライングでひっそりと、あるいは堂々と売られていたりしないかどうかを見に行ったのである。

 念のため、廉価版iPhoneのことを少しだけ説明しておこう。米Apple社は現在、現行の最新モデル「iPhone 5」の他に、型落ちになった「同4S」「同4」の3モデルを販売していて、世代が古いほど価格は安く設定されている。ただ、同4S、同4とも発売された当時はApple社の最高機種、いわゆる旗艦モデルとして出されたものだ。

 これに対して、最近うわさになっている廉価版iPhoneは、Apple社がミドルレンジの市場をターゲットに、旗艦機種よりもあらかじめ価格を抑えたモデルとして投入するというもの。2013年7月末時点の情報では、発表と発売は2013年8月か9月、価格は300~400米ドル台、筐体はプラスチックで、5色ほどのカラー・バリエーションを持つ。そして組み立ては、7~8割程度を台湾Pegatrons社(和碩)、残りを台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕が生産する、という説に集約されつつある。

 さて、廉価版iPhoneがフライングで売られていないだろうか、と考えたのには伏線があった。それは、iPhoneに初めてホワイトカラーが追加された同4発売時のこと。正式発売の数カ月前の時点で、上海の零細携帯ショップの店頭にホワイトバージョンがほんの数日、並べられたことがあったのだ。

 「あれれ? 何で? これ何?」と尋ねると、店員は「iPhone 4だよ」と涼しい顔をして答える。「だってホワイト版はまだ正式に発表されてないじゃない? ニセモノでしょ?」と畳みかけると、「塗装の歩留まりで不良が出ているから発売が遅れているっていうニュースは知ってるでしょ? ここにあるのは検品ではねられたものだよ」との答えが返ってきた。