ドイツBMW社が2013年9月に発売するSUV「X5」の新型車が自動車や通信関連の技術者の注目を集めている。車載LAN技術として通信機器やパソコン、家電製品で採用が広がった通信ネットワーク技術の採用に踏み切るからだ。(日経エレクトロニクスDigitalの関連記事「車載Ethernet」)

BMW社の新型「X5」
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 その通信技術は「Ethernet」。X5では、自動車の周辺監視カメラ・システムの映像データを伝送する通信ネットワークとして車載Ethenetを導入する計画だ。自動車でのEthernetの導入が関心を集める大きな理由は、車載ネットワーク環境にIT(情報技術)業界と同様のオープンな環境がもたらす可能性を秘めているためである。(Tech-On!の特集コラム「車載Ethernetが変える、クルマの未来」)

 Ethernetは、今年40周年を迎えた通信ネットワーク技術。この技術で規定しているのは、ISO(国際標準化機構)が策定した通信機能の階層構造であるOSI基本参照モデルの7層のうち、最下位の物理層と、その上のデータリンク層である。

 名称は、光や電磁波の伝搬原理が明らかになる以前、空気中に存在すると考えられていた媒体「エーテル(ether)」に由来する。これまで、この通信技術は、その名の通りに、あらゆる場所に溶け込み、多種多様なネットワーク機器をつないで普及してきた。

 過去には、「FDDI(fiber distributed data interface)」「ATM(asynchronous transfer mode)」「100VG-AnyLAN」といった並み居る競合技術を駆逐。大量の機器が導入している圧倒的なコスト・パフォーマンスの良さや、相互接続性、拡張性の高さでオフィスから家庭を席巻してきた経緯を持つ。

強力な普及力で、開国を迫る

 その強力な普及力は、車載LANの世界に開国を迫る可能性がある。このため、既存の自動車関連メーカーだけではなく、IT業界が大きな関心を寄せているという状況だ。

 これまで導入されてきた車載LAN技術は、外部の機器やネットワーク・サービスと接続しにくい「閉じた(クローズド)規格」がほとんどだった。現在主流の車載LAN規格である「CAN(controller area network)」や、その次世代規格「FlexRay」、マルチメディア・データ用の高速通信規格「MOST(media oriented systems transport)」などは、「自動車業界の、自動車業界による、自動車業界のための」規格の側面が強かったからである。

 この環境に、Ethernetというオープンな技術が導入されることで、従来の車載機器に加え、スマートフォンやタブレット端末などのさまざまな機器との連携が容易になると期待されている。モバイル通信を用いてWebサービスも利用しやすい。

 一般的なEthernetでは、既に電気信号で最大1Gビット/秒のデータ伝送速度の規格が普及している。この高速伝送を車載LANに活用できれば、高画質のHD映像伝送や、複数の周辺監視カメラによる映像などを機器間で伝送しやすくなる。こうした映像や音声などの、いわゆる情報系のデータ伝送の応用を足掛かりに、いずれは車載LANのバックボーン・ネットワークでも導入が始まりそうだ。バックボーン・ネットワークは、情報系の他に、エンジンやABS、ブレーキなどの「制御系」、エアバッグや衝突センサといった「安全系」の各系統のゲートウエイ同士を接続するネットワークを指す。