トヨタ自動車でハイブリッド車(HEV)初代「プリウス」のハイブリッドシステム開発リーダーを務め、その後2003年の2代目プリウスに搭載した「THSII」などハイブリッドシステム全般の開発を手がけた八重樫武久氏(現コーディア代表取締役)が、ハイブリッド車および次世代環境車を展望する連載「ハイブリッド進化論」。第1回は、初代プリウスのコンセプト実現の経緯と、ホンダが発売した2モータ式の「アコードハイブリッド」や他社のハイブリッド車への期待を語る。

 今でも、鮮明に覚えている。工場検査、品質保証の代表が「販売開始できる品質と確認できたので明日から生産を開始し出荷する」と告げた瞬間を…。それは1997年12月9日に開かれた最後の品質会議のことだった。

 そして翌12月10日、愛知県豊田市の南西に位置するトヨタ自動車高岡工場の組立ラインから、検査を終えた新型車がトレーラーに積まれ、全国に出荷されていった。その新型車こそ、トヨタが「21世紀に間に合いました」というキャッチコピーとともに、世界で初めて発売した量産型HEV「プリウス」だ(図1)。プリウスは10・15モードで28.0km/Lという極めて高い燃費効率を引っ提げて登場したのである。

図1 初代「プリウス」
図1 初代「プリウス」

 初代プリウスの開発においてハイブリッドシステムの開発リーダーを担当し、量産にこぎ着けた筆者にとっても高岡工場は何かと縁のある場所だ。同工場は、日本のモータリゼーション発展を担った初代「カローラ」を生産するために建てられた。実は、筆者は初代カローラを親の脛(すね)をかじって手にしたのがきっかけでトヨタに入社した。奇しくも初代カローラを手がけた高岡工場からハイブリッド車、プリウスの生産が始まったのである。

 それから15年半、2013年の3月末にはトヨタのHEVの累計販売台数が500万台を突破し、プリウスだけでも同年6月に300万台を突破した。トヨタの産み出したHEVがここまで普及するなど、先述した生産開始宣言を聞いたときには想像もしていなかった。

図2 「THS」を採用した初代プリウスのハイブリッド変速機
図2 「THS」を採用した初代プリウスのハイブリッド変速機

 累計販売台数500万台のほとんどは、プリウスに搭載した「THS(Toyota Hybrid System)」や「THSII」と呼ぶ2モータ式のハイブリッドシステムを採用したものだ(図2)。エンジン出力を遊星歯車により発電機とモータに分割、それと電池出力の組み合わせで燃費が最適となるように運転する方式である。そのほかには、プリウスより一足先の97年8月に発売したマイクロバスの「コースターハイブリッド」、ベルト駆動のモータ兼発電機でマイルドハイブリッド「THS-M」を実現した「クラウンハイブリッド」、機械式CVTを持つ1モータ方式の「THS-C」を使う「エスティマ」「アルファード」、さらに宅配車に使われているディーゼルエンジンにアシストモータを付けたパラレル方式のHEVも含まれる。

 特にコースターハイブリッドは、トヨタにとってのHEV発売第1号である。ディーゼルエンジン代わりに1.5Lガソリンエンジンを搭載し、エンジン動力をすべて発電機で電気に変換し、その電力を駆動モータに加え走らせるいわゆるシリーズハイブリッド方式であった。これらが示すように、トヨタは2モータ式以外にも様々な方式を開発し、多くの試行錯誤を経験してきたのである。

 プリウスの開発では、“燃費を2倍にする”という高い目標を実現すべくシステムのコンセプトを煮詰めていった。まずは「アイドリングストップ機構は必須」で、「エンジンの熱効率が下がる低中速走行では、アクセルを少し踏み込んだぐらいの走行でもエンジンを止めてモータで走らせよう」、「減速時の回生発電も目一杯やろう」、「エンジンをかけて走るときは燃料消費率が低い領域での運転が必要だ」、「最高出力や最大トルクを犠牲にしてもエンジンは高い熱効率を追及しよう」、「それには高い圧縮比と高膨張比のアトキンソンサイクルに、ピストンからバルブ機構まであらゆる部分の摩擦損失の低減に取り組もう」などである。こうして、低燃費に貢献する機能をすべて採り入れ、さらに小型車に搭載可能なシステムとして選び出したのがプリウスに搭載したTHSである。

 このTHSはフルハイブリッドやストロングハイブリッド、出力の流れからシリーズパラレルとかトルクスプリットといった名称で呼ばれたが、いずれもTHSを実用化してから後で付けられた名称で、当時のHEVの分類にはなかった方式だ。