医療従事者:「この使い捨ての血圧計(「Aライン」と呼ばれる観血式血圧計)、患者にセットしようとする際に壊れることが時々あって、困ってるんです」
半導体技術者:「そうなんですか…」
医療従事者:「中に圧力センサが入っている程度の比較的単純な機器なんですけど、約5000円もするんですよ」
半導体技術者:「え、本当ですか?」
医療従事者:「自動車のように振動や温度の使用条件も厳しいわけではないですし、むしろ、自動車向けに利用されているような技術を使えば、もっと信頼性高く、かつ安くできるのではないかと思っているのですが…」
半導体技術者:「はい、そう思います。我々が試作しましょう」
医療従事者:「ぜひ、お願いします」─―。


 このやり取りは、2012年某日、関東地方のとある病院の手術室内で実際にあったやり取りの様子を、同病院の医療従事者への取材を基に再現したものです。2013年2月18日号の日経エレクトロニクスの特集記事「革命 医療機器開発」でも紹介しました。

病院

 医療従事者が、ある医工連携セミナーで知り合った半導体メーカーの技術者を手術室に案内した際、かねて感じていた観血式血圧計の課題について話したそうです。すると、その事実(課題)に半導体技術者が驚いた、というシーンです。

 この「驚いた」という点には、二つの重要なポイントが含まれていると筆者は考えています。

 一つは、半導体技術者は、医療現場やそこで使われている機器の実情を知らない、という点です。知らないからこそ、事実を聞いて驚いたわけです。

 もう一つは、他の分野では当たり前に導入されている技術が、医療の現場(医療機器など)では使われていない、という点です。つまり、半導体技術が驚いたのは、自社が他の分野(自動車など)に向けて提供している技術を使えば、そのようなコスト・信頼性はあり得ないと思ったからでもあるのです。

 これは、この半導体技術者が不勉強なわけでもなく、観血式血圧計が特殊な機器の事例というわけでもありません。半導体をはじめ電子部品・部材関連の企業は、これまで医療の現場を知るすべがほとんどなかったのが実態でした。そして、医療機器が自動車や民生機器に比べて技術の導入に遅れがあるのも、すべてのケースでとは言い切れませんが総論としては間違いではないでしょう。

 逆に言えば、冒頭のやり取りのように、電子部品・部材関連の企業と医療従事者の連携(マッチング)がもっと進むようになれば、医療に新たな価値が生まれる可能性があります。前述の医療従事者は次のように言います。「例えば自動車向けに厳しい要求事項に対応しながら部品・部材を供給しているメーカーに、医療現場やそこで医療機器がどう使われているのかを見せたとする。その中に、自社のノウハウを活用できる余地がたくさんあることに気付くはずだ。我々も部品・部材メーカーと協力していけば、確実にイノベーションを起こせる」。

 そこで日経BP社は、こうした“マッチング”を提供することを主眼にした複合イベント「ヘルスケアデバイス展」を2013年10月23~25日にパシフィコ横浜で開催します。電子部品・部材メーカーが持つ医療分野向けの優れた要素技術、すなわち「ヘルスケアデバイス」を、現場で価値を生むものに育てるために必要なことは何か。ブース展示・主催フォーラム・交流会・複数の併設イベントなどを通して考えられる場にすべく、内容のブラッシュアップを今まさに進めております。ご期待ください。