塩化チオニル・リチウム電池の例
写真:東芝ホームアプライアンス
[画像のクリックで拡大表示]

 構造物の劣化具合や農地の環境をセンシングする無線センサ・ネットワーク・システム(関連記事)向けの電源として、わずかな消費電力で使えば10年もつ電池に注目が集まっている。塩化チオニル・リチウム電池だ。他の多くの電池は、負荷がなくても自己放電のために数年で使えなくなるが、塩化チオニル・リチウム電池は自己放電が極めて少ない。また、熱や振動、光などから発電するエネルギー・ハーベスティング・デバイスより安価という。

 「無線センサ・ネットワーク向け電源として、主に使われているのは塩化チオニル・リチウム電池」。このように言うのは、米国の大手半導体メーカーLinear Technology社の日本法人リニアテクノロジーで地域統括セールスマネージャを務める小林純一氏である。無線センサ・ネットワークでは、広範囲にセンサを敷設して温度などの環境データを無線送信する。電源として、電池交換が不要なエネルギー・ハーベスティング・デバイスが使えれば好都合なはずだ。同社自身もエネルギー・ハーベスティング・デバイス向け電源ICを積極的に開発・販売している。

 それにもかかわらず電池に着目する理由を同社の小林氏は次のように説明する。「エネルギー・ハーベスティング・デバイスは、熱や振動から発電するため発電量にムラがあって使いにくい場合がある。特に産業用途では、必要な時に確実に電源を使えなければならない。多くの用途で求められるのは、設計段階で定量的な仕様を提示できる電池だ」。もちろんエネルギー・ハーベスティング・デバイスが適している用途はある。しかし、モジュールの消費電力を抑えられれば、多くの用途が長寿命の電池で間に合うという。自然環境の不安定さによる不確実性を嫌うシステム設計者には、安価で実績もある電池が現実的な選択肢ということになる。