「やっぱりリスクの量が違うと思うんですね。市場を作っていかなきゃならない最終製品メーカーさんは、コンセプト作りやブランディング、設備投資などで、すごくお金が掛かる。部品メーカーは、先行開発をすると言っても、需要のかなりの部分はお客さんに作ってもらうわけですから」(アルプス電気 取締役 コンポーネント事業担当 技術本部 副本部長の笹尾泰夫氏)。

 テレビなどの最終製品で、日本の電機メーカーは海外企業に負けてしまいました。一方、電子部品業界では、国内勢の勢いはまだまだ健在に見えます。両者の違いは何かを聞いたところ、帰ってきた答えがこれでした。自分で市場を生み出すわけでない部品業界は、勝ち馬に乗りさえすればいいので、機器メーカーほど大変ではないというわけです。

 もっとも機器メーカーの本命を当てるのは、口で言うほど簡単ではありません。米Apple社の「iPhone 5」の需要が予想を下回り、依存度の大きかった部品メーカーが影響を被った一件は記憶に新しいところです。市場が大きく伸びる新興国のメーカーが、スマートフォン(スマホ)市場の覇権を奪う可能性もあります。目まぐるしく変転する市場で、部品メーカーはどのように勝ち残ろうとしているのか。その戦略を日経エレクトロニクスの8月5日号の記事でまとめました。

 取材の過程で浮かんできたのは、機器メーカーの「本音」を探り出すことが、ますます重要になっていることです。Apple社に限らずスマホ・メーカー各社の強気の出荷予想を積み上げると、合計台数は途方もない数字になると言います。それがどれくらい確かなのかを見極めないと、体力の乏しい部品メーカーが無謀な投資に打って出て経営が傾く場合もありえます。

 将来を嘱望される、新市場でも同じです。車載やヘルスケア、エネルギーといった期待の分野では、部品メーカーはいわばずぶの素人。どんな技術や部品が有望なのかは、顧客の声に真摯に耳を傾けなければ分かりません。顧客すら気づかない隠れた要望を、他社よりも早く掘り起こせたメーカーが、新市場の勝者になるはずです。