日本の部品メーカーも、この点を重々承知しています。世界中の顧客のもとに技術者や営業部員を送り込んで、顧客の声を吸い上げようと必死です。低価格を武器に迫り来る海外の部品メーカーに対して、日本メーカーの強みはやはり高い技術力。それを活かして勝ち逃げを図るには、顧客の本心を探り、顧客よりも冷静に市場を分析して、顧客の予想をいい意味で裏切る新製品を投入できるかどうかがカギを握ると言えそうです。

 あれ、ちょっと待ってください。前の段落の結論って、主語を機器メーカーにしても、同じことが言えないでしょうか。しかも冒頭のコメントのように、両者の主な差が「量」なのだとしたらどうでしょう。ちょっと想像をたくましくして、部品メーカーがものすごく頑張ったとすると、いずれは機器メーカーのお株を奪って、最終製品の市場まで操るようになるとは言えないでしょうか。もちろん車やヘルスケアといった異分野では難しいでしょうが、民生用など電子機器の分野では、ひょっとしたら部品メーカー発の新ジャンルが生まれないとも限りません。

 あながちありえない話ではないのかも。現に新興国向けの安価なスマホは実質上、半導体メーカーが作っています。米Qualcomm社や台湾MediaTek社が提供する参照デザインをほとんどそのまま組み込んだ端末が、新興国では当たり前になりつつあります。日経ビジネスの最新号では、スマホ・メーカーの多くはこうしたSoC(system on a chip)メーカーの「下請け」になってしまったと嘆いていました。パソコン市場でも、結局主役に居座ったのは「Wintel」。Microsoft社は自社製タブレット端末を売り出しましたし、Intel社がマレーシアに一大拠点を置く理由は、スマホやタブレット端末に対するアジア市場の要求をくみ取るためということです。

 残念ながら日本には、SoCやOSで世界をリードする企業はありません。だからといって、機器市場のキャスティングボートを握ることはないと諦めるのは早計です。クラウド時代の電子機器は、必ずしも端末側に強力な計算能力が必要ではないからです。それよりも、センサやタッチ・パネル、ディスプレイなど、ユーザー・インタフェースをつかさどる部品の方が、機器の将来を大きく左右することはありえます。そこでは強い日本の部品メーカーが、スマホの後を継ぐ次世代ネット端末の開発レースで意外なダークホースになるとしたら…。

 もちろん、そんなはずはありません。アルプス電気の笹尾氏は語ります。「部品メーカーが、『次のスマホはこうなるから、そのためのデバイスとしてこういうものを用意する』とか、言うは易しですけど、なかなか難しいですよ」。実際、新たな大市場を築く電子機器が、部品メーカーから出てきた例は恐らくこれまでないでしょう。WintelやQualcomm社が業界を支配するのは、決まって市場が成熟した後なのです。なぜなら、部品メーカーは機器メーカーよりも一段エンド・ユーザーから離れているからです。部品メーカーがユーザーの潜在的な需要を見つけられるのだとしても、機器メーカーがもっと得意でない理由があるでしょうか。「分相応じゃないと思うんですが、やっぱりセット・メーカーさんに、トレンドを追っかけるとか、読むとか、探すとかじゃなくて、(新しい市場を)自分で創りだしてほしいですよね」(笹尾氏)。私もそう思います。

■変更履歴
掲載当初、2ページ目の第2段落で「創造をたくましく」としていたのは「想像をたくましく」、同第4段落で「協力な計算能力」としていたのは「強力な計算能力」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2013/7/26 12:47]