どう年齢と向き合うか

 老化は自然現象である。誰も逃れられない。しかし、企業トップや従業員の平均年齢の若返りは、人の入れ替えによって可能だ。企業トップの高齢化には、企業の経営を安定化するためという理由もあるだろう。どう世代交代を図るかは、どの国のどの企業でも難題と言われる。中国の実業家はその難題に挑戦した。

 Alibaba Group元CEOの馬氏の場合、意中の若手へCEOのポストを渡して、第一線から引退して、企業のさらなる発展を図っている。引退の思いについて、馬氏は、次のように述べている。

「PCインターネットが(どうなるか)まだ分からないうちに、モバイルインターネットが来た。モバイルインターネットが(どうなるか)まだ分からないうちに、ビックデータが来た」
「いまこそ若者の時代」
「明日から普通の生活が私の仕事」
「AlibabaのCEOに戻るつもりは全くない、必要もない、若手はきっと私よりよくやってくれる」
、 「教育や環境保護活動といった社内貢献には興味があり、今後、参加してみるかもしれない」

 馬氏は円満に引退して、企業の未来を若手に託した。史氏も「インターネットは若者の世界」という理由で、若者へCEOの席を譲った。

 しかし、世代交代はそう簡単なことではない。特に、グローバル企業にとっては、非常にリスクが高いことだ。そこで、中国通信設備と端末大手であるHuawei Technologies社は革新的な「輪番制」でこの難題に挑戦している。

 Huawei Technologies社では数年前からユニークなCEO輪番制度を採用している。取締役会から選出された3人の代表者が、任期6カ月のCEO職を輪番で担当する。

 その背景については、Huawei Technologies社総裁の任正非氏がメッセージを出しており、同メッセージは同社Webサイトの「ファーウェイにおけるCEO輪番制度の意義」(日本語)という文書の中で紹介されている。任氏は、次のように述べている。

「私が思い描く“CEO”とは、博識で、世界的な視野と広い心を持ち、技術と業界の動向を常に把握している経営者です。こうした優秀な人材の中から1人を選び出し、CEOとして長期経営を任せるのは、それができるだけの資源と特権を有する企業にとっては有効かもしれません。しかしファーウェイは、知識とお客様からいただく評価を財産とする企業であり、技術への投資を第一としています。そのため、技術のダイナミズムと市場の変動性を考慮したうえで、当社は少人数の経営者が交代でCEOの職務を引き受けるというCEO輪番制度を採用しました。いくつもの業務を処理し、深い洞察力を備え、正しい方向づけをするといったことを1人のCEOに期待するよりも、複数のCEOがそれを輪番で受け持つほうが効果的であると、当社は考えます」

 この輪番制自体が成功かどうか別にして、イノベーションのマネジメントにおいては、1つの価値があるトライではないかと考えさせられる。

 馬氏と史氏の早期引退の決断、任氏の「輪番制」の実施。いずれにしても、日進月歩の技術の進化を追いかけ追い越していくための世代交代を積極的に進めるためのものといえる。

最後に

 馬氏のAlibaba Groupと同じの業種で、ほぼ同時期に成長してきた楽天の社長の三木谷浩史氏は、現在、日本の産業界においては、最も成功した若いリーダーの1人として期待されている。しかし、三木谷氏と同い年の馬氏は既に第一線から去り、もっと若い後任者へバートンタッチしている。これは特殊な事例かもしれないが、日本と中国のトップの年齢差は歴然である。

 年齢だけをみれば、現在の中国企業は、創業年数、平均年齢、トップ年齢のいずれも、世界的に若いと見られる。若さだけでイノベーションを起こせるわけではないが、若さによる活力がイノベーションの促進剤になるのは間違いないだろう。