前回は、進化型すり合わせ開発の進め方「V字プロセスとRFLP〔R:要求(Requirement)→F:機能(Function)→L:論理(Logical)→P:物理(Physical)〕」の最初に実施することになる「要求整理」の具体的な考え方、進め方を説明しました。今回は、正しく定義した製品要求から機能(働き)に落とし込むことの重要性と、具体的な考え方・進め方を説明します。

技術的ブレイクスルーはどのように起きるのか?

 画期的な製品や技術を生み出す上で重要なことの1つは、機能(働き)に立ち返って最適解を追求することだと考えます。1つの例として、ダイソンの扇風機について考えてみます。「快適な風を送る」「安心して使える」「お手入れが簡単」といった製品要求に対して、従来の羽根やカバーで何とかしようと考えるのではなく、「周囲の空気(入力)からムラのないスムーズな風(出力)を作り出す」という、1つ抽象化した機能(働き)に立ち返ったからこそ起き得た技術的ブレイクスルーだと考えます。

なぜ、従来製品の構造を盲目的に流用してしまいがちなのか?

 一方、多くの日本人エンジニアは、従来製品の構造を盲目的に流用してしまう傾向があり、技術的ブレイクスルーが起きにくくなっています。なぜ、そうなってしまっているのでしょうか。

 ここでは、代表例として日本の自動車産業の歴史と現状を見ることで考えてみます。日本の自動車産業は、欧米の自動車構造を理解するところ(ある意味、構造のモノマネ)からスタートし、基本性能(走る、曲がる、止まる)に加え、信頼性、安全性、製造性などの様々な製品要求に対する改善につぐ改善の努力を続け、世界でもトップレベルの品質を有する製品を市場に浸透させてきました。また、量の拡大による利益確保のビジネス戦略を取ってきたこともあり、開発現場では、利益の最大化(=原価低減や開発期間短縮)に主眼においた派生設計が多くを占めてきました。そういった中で、実際の開発現場のエンジニアからは、次のような声をよく聞きます。「これまでよりも良い設計案を模索しているけど、新しい案をうまく発想できないんですよ。それに、変更による弊害や手間を考えるとついつい従来の延長になってしまうんです」。エンジニアとして変えたい思いはあるが、忙しい中でどうやれば最適な案を導くことができるかが分からないというのが実情のようです。

 一方、第1回の連載で述べたように、近年の日本の製造業を取り巻く外部環境は大きく変化してきており、「常識では考えにくい高度な製品要求」が次々と現れ、従来製品の構造を盲目的に流用するやり方ではいつになっても解にたどりつけない状況に置かれています。

 このような背景から、機能で考えることが、より良い設計案を発想し、かつ開発初期にしっかりとすり合わせを行えるようにするためのポイントになります。