「うーん、一言でいうと“立体塗り絵”ですかね」――。

 『日経エレクトロニクス』2013年7月22日号の表紙デザインを検討しているときに筆者が本誌のアート・ディレクターに伝えたイメージは、こうでした。「平面の塗り絵も楽しいけれど、それが立体になるともっと楽しくなる。そんな印象にしたいんです」。こうしたイメージに沿って選んでもらった写真が、同号の表紙になっています。ぜひ、お手に取ってご覧いただければ幸いです。

 ディスプレイといえば、四角く平面であることが常識でした。映像を撮影・作成し、伝送し、表示するためには、決まった形があることが望ましいからでしょう。もちろん、カメラやディスプレイの製造しやすさも関係しているはずです。

 こうしたフラットパネル・ディスプレイの進化は今後も続く見通しですが、それとは別の軸として、ディスプレイが立体形状になる未来が見えてきました。そこで今回の特集「ディスプレイはフラットを超えて」では、ディスプレイの立体化によって新しい体験をユーザーに提供できる可能性があることを主題としてまとめました。

 その特集のキッカケとなったのが、ここ1~2年で、いわゆる「プロジェクション・マッピング」の実例が急激に増えたことです。プロジェクション・マッピングは、建造物などの立体物をスクリーンとして、その立体形状に合わせて制作・調整した映像をプロジェクターで投射する表現手法です。

 プロジェクターには元来、投射する場所や大きさの自由度が高いという利点がありました。液晶パネルなどの直視型ディスプレイに比べてディスプレイを大型化しやすいため、映画館やオフィスなどで使われてきたのです。そして最近のプロジェクション・マッピングの流行で明らかになったのが、プロジェクターには現実の物体の見た目を変えられるという潜在能力があることでした。

 投射映像を工夫すれば、まるで現実の物体の形状が変わったり色や模様が変わったりしたかのように表現できます。そして、ユーザーはそれを目新しい体験として受け入れてくれました。プロジェクターの新しい魅力が発掘されたといえます。

 プロジェクターを活用することで、プロジェクション・マッピングの他、立体形状でのインタラクティブなGUIなども実現可能になりそうです。映像投射装置だったプロジェクターが、現実拡張装置に変わりつつあるのです。画質が周辺の明るさや投射面の色に左右される、光を投射する空間が必要、といった制約はありますが、プロジェクターは今後、現実を拡張するための道具としてさらに広く使われていきそうです。今後のプロジェクターの技術進化と用途拡大に注目したいと思います。