日経エレクトロニクスでは、2012年7月23日号から2013年2月4日号まで約半年にわたって「エネルギー・システムのためのモデルベース開発講座」という連載を全7回で掲載しました。そもそものきっかけは、東日本大震災後に電力システムの高効率化や双方向性の確立が叫ばれる中、その根幹となる高効率なエネルギー・システムを開発できる人材が足りないと感じたことにありました。

 東日本大震災後の原子力発電所の事故によって、国内でも地産地消を目指した電力システムの構築をはじめ、中大型の蓄電池を用いた住宅やビル、工場、地域での電力の平準化や、電気自動車などの車載電池を用いた「V2H(vehicle to home)」「V2G(vehicle to grid)」など、新たな電力システムを模索する動きが活発になっています。ですが、家庭用の100Vから送電網の6.6kVなど取り扱う電圧の範囲は広く、昇降圧の回路や直流と交流の電力変換回路を設計し、システムとして構築できる企業は一部に限られているのが実情です。

 こうした状況を打破するには、高効率なエネルギー・システムを短期間かつ、信頼性や耐久性を担保できる開発手法が必須です。そこで、自動車や航空宇宙分野で浸透してきた“モデルベース開発(Model-based Development)”に注目したわけです。自動車分野では、燃費向上のためのエンジン制御をはじめ、ハイブリッド車や電気自動車といった電動車両のパワートレーン制御、さらには次世代運転支援システム(ADAS)などのシステム制御が非常に複雑化しており、システム開発の効率化のためにモデルベース開発が不可欠な手法となっています。

 しかも、モデルベース開発は機械系の制御だけではなく、電気系への適用が可能です。モデルベース開発は、抽象度が高い「モデル」をすべての開発フェーズで使用する開発手法で、システムの挙動をモデル(主に数式)で表せるすべての分野に応用可能です。エネルギー・システムにおいても、試作を繰り返す従来のトライ・アンド・エラー的な開発ではなく、シミュレーションを多用することができ、開発期間を大幅に短縮することを期待できます。

 こうした特徴を備えたモデルベース開発をエネルギー分野で活用すべく活動を続けてきたのが、dSPACE Japanです。スマートエナジー研究所などと共に、福岡スマートハウスコンソーシアムや横浜スマートコミュニティといったコンソーシアムの実証試験の中で適用を進めています。

 実際、2013年4月には横浜スマートコミュニティの次世代型スマートハウスの研究・実験施設である「スマートセル」において、村田製作所製と共同でモデルベース開発の手法を用いたエネルギー・システムの試作品を披露しました。具体的には、太陽電池や鉛蓄電池、系統電力、住宅内負荷との間での電力を制御するシステムです。すべての構成部分をモデル化できているため、シミュレーションで様々な検証が可能となり、非常に短い開発期間で仕上げることができたとのこと(関連記事)。

 このようにエネルギー分野においてもモデルベース開発の手法を活用してもらうために、日経エレクトロニクスではdSPACE Japanやスマートエナジー研究所の協力を得て、「エネルギーシステムのためのモデルベース開発講座」の連載を掲載しました。さらに、この連載を基に書籍「モデルベース開発」を2013年7月15日に発行しました(詳細はこちら)。dSPACE Japan監修で、日産自動車の柿崎成章氏やスマートエナジー研究所の中村創一郎氏に執筆協力していただきました。

 本書籍では、モデルベース開発の概要から機械系の物理モデリング、電子回路のモデリング、応用編としてデジタル電源制御などについて解説し、自動車分野での適用例をはじめ、エネルギー・システム開発での応用例を紹介しています。自動車や航空宇宙分野の制御技術者だけでなく、エネルギー分野でのシステム制御に関わる方々にぜひご一読いただければ幸いです。また、2013年9月20日(金)には書籍の発刊を記念してNEアカデミー「モデルベース開発の基礎とエネルギー分野での応用」を開催する予定です(詳細はこちら)。