スマホの普及で気運が高まる

 ではなぜ、ここにきてHMDの開発が活発になっているのか。背景には、「スマートフォン革命」がある。常に持ち歩く、手のひらサイズの高機能な情報端末「スマホ」の世界的な普及がHMD開発の気運を高める引き金になった。

 HMDにとってのスマートフォン革命は、二つの方向から押し寄せている。

Google社のHMD「Google Glass」は社会的な話題となった。
[画像のクリックで拡大表示]

 一つは、スマホの登場でWebサービスと連携し、HMDにリアルタイムに情報を配信する仕組みを実現しやすくなったことだ。「Bluetooth」や「無線LAN」のような近距離無線技術を用いれば、スマホをインターネット接続の中継基地(アクセス・ポイント)として活用できる。

 これにより、HMDは機器単体での機能性にこだわる必要がなくなった。Webサービスと組み合わせた脱売り切りビジネスの可能性が開けてきたのである。これがHMDを開発する多くのベンチャー企業が期待する点だ。

 もう一つは、世界で大量生産されるスマホの量産効果が携帯機器に搭載するLSIやセンサ、電子部品の小型化や高性能化、低電力化、低価格化を一気に推し進めたことである。HMDに搭載される部品の多くは、スマホと同等だ。

 例えば、Recon社のMOD Liveには、英ARM社のCPUコアを用いたアプリケーション・プロセサや、GPS測位用LSI、9軸の動きセンサ(3軸加速度、3軸角速度、3軸地磁気)、気圧センサなどを内蔵している。これらを用いて、スノースポーツを楽しむための滑走状況などをリアルタイムで計測、分析してユーザーに提供できる。

 電池の消耗が早い、寒い雪山での使用環境を考慮して、消費電力の高いGPSをなるべく使わずに加速度センサなどで自律航法(dead reckoning)による測位を実現する機能も加えている。こうした高度な技術を詰め込みながら400米ドル前後の価格に収めた。HMDというカテゴリながら、中身はスマホなのだ。

 LSIの集積化と電子部品の小型化によって、HMDの重さも30~70gほどと従来よりもだいぶ軽量になった。「スマホの普及でHMDに用いる部品が小型で低価格になったことは大きい。今後はさらに小さく安価になるだろう」と、Recon社のAbdollahi氏は先を見る。