物質・材料研究機構ナノ材料科学環境拠点拠点マネージャーの長井寿氏
物質・材料研究機構ナノ材料科学環境拠点拠点マネージャーの長井寿氏
単行本『アジアから鉄を変える 新しい鉄の基礎理論』
図1●単行本『アジアから鉄を変える 新しい鉄の基礎理論』(東洋書店)

 2013年5月1日に単行本『アジアから鉄を変える 新しい鉄の基礎理論』(東洋書店)が発行された。同書は、日本のものづくりを支える基盤材料である鉄(正確には鋼)の近未来像を大胆に語る“啓蒙書”であり、鉄利用の“技術解説書”でもある(図1)

 著者は、文部科学省系の公的研究機関である物質・材料研究機構(NIMS、茨城県つくば市)のナノ材料科学環境拠点(NIMS-GREEN)の長井寿拠点マネージャーと平塚金属工業(神奈川県平塚市)の守谷英明品質保証部長の2人だ。長井拠点マネージャーは日本の新材料の研究開発のキーマンの1人。守谷部長は、以前に物質・材料研究機構に研究者として勤務した経歴の持ち主である。

 この単行本の「第一部 入門編」では、日本のこれからのものづくり、すなわち製造業の近未来像について、鉄の未来予測などを基に推測している。

 長井拠点マネージャーは、統計データに基づき、「日本の工業材料の生産量は1年間に約2億tに達し、この質量比の約50%を鉄が占めている」と説明する。つまり「日本の製鉄業は鉄を最大で約1億t生産し、そして鉄の約70%を内需として消費してきた」という日本の現状を語る。基盤材料として、鉄が日本の社会インフラストラクチャーの構造体や製造業の各製品を支えてきた経緯を淡々と解説する。

 先進国である米国とEU(欧州)各国の鉄の内需動向から日本の近未来を推測すると、「日本でも今後は内需と同等の量の鉄スクラップが発生する」と予測する。この鉄スクラップを貴重な鉄資源として活用する“新しい鉄”による近未来像を説明する。鉄スクラップとは多少ニュアンスが違うかもしれないが、鉄もある種の“都市鉱山”から資源材料を供給できれば「海外からの鉄鉱石の輸入などに頼らないで済む可能性が浮上する」と指摘する。これが“新しい鉄”の可能性である。

 実は、この基盤技術となる“新しい鉄”の研究開発は、物質・材料研究機構(当時は金属材料技術研究所)が1997年度(平成9年度)から「『超鉄鋼材料』研究開発プロジェクト」として10年間実施している。この研究開発プロジェクトを率いたのが、長井拠点マネージャーである。

 こうした経緯の下に、“新しい鉄”を提唱する長井拠点マネージャーに、国を支える基盤材料である鉄の将来像などを聞いた。

* 本文でいう「鉄」とは、鉄(Fe)と炭素(C)の合金である「鋼」を意味している。通常でも「鋼」を「鉄」と呼ぶことが多いので、本稿では鉄という表記で統一する。