2013年7月末の発刊に向けて、日経BP半導体リサーチ/日経エレクトロニクスの別冊「半導体ストレージ2014」の編集を進めています。ここ数年、ビッグデータを支えるデータセンター向けストレージ技術としてNANDフラッシュ・メモリや新型不揮発性メモリの重要性は高まる一方です。これらのメモリ技術に関しては、大きく二つの方向性が見えてきました。一つは、NANDフラッシュ・メモリの進化がまだまだ続くこと、もう一つは新型不揮発性メモリによってストレージがさらなる進化を遂げるということです。

 今回の別冊の寄稿者であり、東芝でNANDフラッシュ・メモリ事業の立ち上げに携わった有留誠一氏(現・韓国SK Hynix社)によれば、プレーナ(平面)型NANDフラッシュ・メモリの微細化は、1992年ころから始まりました。当時は0.7μm世代のプロセス技術で製造しており、容量は16Mビットでした。その後、20年以上にわたって13世代もの微細化を繰り返した結果、現在のNANDフラッシュ・メモリは22~19nm(いわゆる2Ynm)世代、64G~128Gビット品に進化しています。この間、チップ当たりの容量は4000~8000倍に増えたわけです。2013年後半には19~15nm(1Xnm)世代の128G~256Gビット品の量産が立ち上がるといわれています。

 ただし、プレーナ型NANDフラッシュ・メモリの微細化もいよいよ限界に近づいてきました。1Xnmの次の1Ynm世代は実現できても、その次の1Znm世代は難しいのではないかとの指摘があります。それでもNANDフラッシュ・メモリが高速ストレージ装置の記憶媒体としての主役の座を明け渡すことはないと考えられます。微細化と並行して、メモリ・セルを立体的に積み重ねた3次元NANDフラッシュ・メモリの開発が着々と進んでいるからです。3次元NANDフラッシュ・メモリのサンプル出荷は2013年中にも始まり、2015年には量産化されるとみられています。これにより、1チップでTビット級の容量を持つNANDフラッシュ・メモリが実現される見通しです。NANDフラッシュ・メモリの技術進化はまだまだ続くといえるでしょう。

 では、抵抗変化型メモリ(ReRAM)や磁気メモリ(MRAM)、相変化メモリ(PRAM)、強誘電体メモリ(FeRAM)といった新型不揮発性メモリはどのような役割を担うのでしょうか。現状では、NANDフラッシュ・メモリやDRAMの置き換えは難しいというのが実情です。既に述べたようにNANDフラッシュ・メモリは今後5~10年にわたって進化を続ける見込みであり、これを置き換えることは容易ではありません。

 一方、DRAMの置き換えはSTT-MRAMやReRAMを中心に期待されているものの、こちらも相当に難しいのではないかとの指摘が出ています。STT-MRAMやReRAMはデバイス単体のスイッチング速度は十分に高速です。しかし、今回の別冊の寄稿者である中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科 教授の竹内健氏によれば、微細化されたメモリ・デバイスのアクセス時間はメモリ素子のスイッチング時間ではなく、ビット線やワード線のRC時定数で制限されます。この結果、DRAM並みの高速動作を実現するためには、配線長を短くするためにセル・アレイを細かく分割する必要があり、高コストになりやすいというわけです。

 むしろ、新型不揮発性メモリはNANDフラッシュ・メモリと組み合わせることで、その真価を発揮すると竹内氏は今回の寄稿の中で指摘しています。具体的な用途としては、新型不揮発性メモリをキャッシュ兼ストレージとして利用する「ハイブリッドSSD」が挙げられます。新型不揮発性メモリには“上書きや追記が可能”というNANDフラッシュ・メモリにはない優れた特徴があります。この特徴を生かすことで、NANDフラッシュ・メモリにおけるデータの断片化を抑制し、ストレージ装置としての性能や消費電力、寿命を大幅に改善できると考えられています。そう遠くない将来、新型不揮発性メモリによってストレージ装置はさらなる進化を遂げ、膨らみ続けるビッグデータを支えることになるでしょう。